カウントダウン | ナノ



感謝の気持ちを(1/2)


 
 
 
 
 
今日も今日で退屈で仕方が無い日だ。最近はあいつがいるから退屈とは思わないが…やはりあいつがいなければ退屈になる。友達と話したり委員の仕事をしたりと何かと動いているあいつを引き止めるわけにはいかないだろう。だから昼休みが俺にとって退屈じゃないのだがーーー。


「でね、今日はー!」

「うるせぇんだよ!もう少し声を落とせ!」

「はぁ!?そう思うなら何処かに行けばいいじゃん!」


こいつがいなければ本当に最高だと毎日思う。俺は目の前のエメラルドグリーンの髪の女ーーーアイリが心底苦手…つか嫌いで堪らねぇ。煩いわ一人で勝手に盛り上がるわ、とある男の愛をいきなり話し始めるわで頭が痛くなる。よくこんな奴と仲良く出来るぜ。そこだけは尊敬するな。


「ユウヤっていっつも何なの!?悪口しか言えないわけ!?ね、ロイ」

「俺はユウヤと同じ気持ちだしな」

「はっ、当然だな」


アイリが目を向けた先には…こいつにとって愛しい男がいる。俺と瞳の色が同じ燃えるような赤い髪。購買で買った飲み物を飲みながらも素っ気なく返す男ーーーロイ。アイリはますます声を上げて俺は耳を塞ぎたくなった。はぁ…この女がいる限りゆっくり寝る事が出来ねぇな。


「ふふっ、三人とも仲がいいのね」

「「「どこが?」」」


一人の女の声に珍しく俺達は声を揃えてツッコミを入れる。それすらも彼女にとって楽しいのか、クスクス笑いながら俺達を見る金髪の女ーーーピーチ。…一応、俺の恋人。ピーチが笑うと何だか騒ぐに騒げなくなり俺達は静かに各自の弁当を食いはじめた。


「ところでアイリ、何を言いたかったの?」

「ん?今日はさ、感謝する日なんだよ。あ、因みに考えたのは私ね!」

「てめぇ…頭おかしくなったんじゃねぇ?」


冷めた声と冷めた表情で言う俺にアイリが再びギャーギャー喚く。なんとかピーチが落ち着かせるとトドメとばかりにロイが「馬鹿だろ」と追い打ちをかける。大体何で感謝する日を勝手に決めるんだとかつくるのもいい加減にしろと…俺より酷い毒舌で責めるロイにアイリは今にも泣きそうな顔になった。


「ロ、ロイさん?アイリも悪気があったわけじゃ…」

「いいよ、ピーチ」


先程の明るさは何処にいったのか、随分穏やかな声でアイリは言い、立ち上がる。普段なら笑いながら謝るか、逆に怒るかの二択なのにどうやらロイにキツく言われるとかなり堪えるみたいだ。


「ごめん、先に教室に戻るね」

「え、ええ。わかったわ」


ちらりとピーチは一瞬ロイに見る。が、ロイは気づいていないのかそのまま弁当の中身を口に入れて味わっていた。アイリとは目が合わない。合わせようともしない。涙を堪えて背中を向け屋上から去るアイリを見送ればピーチは困った表情で俺を見ていた。どうする?と訴えているのだろう。めんどくせぇ。何で俺がこいつらの仲を仲介しないといけねぇんだよ。


「…ロイ。後で謝っとけよ」

「心配してるのか?珍しい事もあるんだな」

「チッ、てめぇ!」

「落ち着いてユウヤ!」


別に心配とかじゃなくてピーチが不安そうな顔してるからだ!…そう口にするのは何だか悔しいっつーか、ロイにからかわれそうというか。とにかくムカつくのは確実だから口にはしない。
一人いない中、俺達は昼休みを終わらせた。





…ムカつく。あーやっぱりうぜぇ。まだ喧嘩っぽいままでいるあいつら。俺には関係ない話だが、ピーチを困らせるのは気にくわねぇ。
イライラしながらも俺は学校を出る為に門へと向かう。そこにいたのは…俺の女。俺を見つけると嬉しそうに頬を緩め手を振るピーチ。少し照れくさいとは思いながらも振り返す。


「委員の仕事はいいのか?」

「終わらせてきたの。ユウヤと帰りたかったから」

「…そうかよ」


内心喜んでいる自分を殴りたい。ピーチといると俺らしくなくなるな。
ぶっきらぼうに返しながらも俺達は歩きだす。ピーチはどこが嬉しそうにニコニコしていて俺は何があったのかを問えば、彼女は両手を合わせて目を輝かせた。
ロイがアイリの元へ向かったらしい。つまりロイが謝りに行ったという事に等しい。ピーチはかなり嬉しいみたいでキャーキャー言っている。まあ…笑ってくれたのならいいか。
他愛ない話をしながらも寄り添いながら帰れば不意にピーチが俺に静かに言う。

「感謝する日…か」

「…あいつが勝手に決めた日だろ?」

「それでも私はユウヤに感謝したいわ」


目を伏せて呟く彼女に俺は見惚れてしまう。やがて視線が混じり見つめ合う。俺とは正反対の色の瞳。…不思議だな。ピーチが考えている事がわかってしまう。俺も同じ事を言おうとしているからだろうか。…何にせよ、彼女と心が重なっている事がたまらなく愛しい。俺らしくないけど。


「私と出会ってくれて…好きになってくれて、ありがとう」

「ああ。俺も、サンキュな…ピーチ」


決してピーチみたいに直球では言わない。…これだけでもピーチには充分わかっていると思うからだ。つか、思うというか信じてる。こっちの方がしっくりくるか。
お互い照れながらも笑いまた家へと歩きだす。ーーー無意識につないでいた手は離さずに。
 
 
 
 
 

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