宿にて泊まる事になった私達はそれぞれするべき事や、次の掃除屋の仕事の時に使う道具を準備したり体を休めたりとこの日を過ごしていた。そして私は…。


「トレインさん、足…大丈夫?」

「大丈夫だって。つかその質問何回目だよ」


指摘されたとしても心配なものは心配なんだもん。だからきっと今日は何度でも彼に同じ質問をしてしまうだろう。
全然平気だと私に笑顔を向けている彼…トレインさんは念の為今日一日安静の為にほぼベッドから出られない。というよりも、出ない様にスヴェンさんに言われたのだ。
その原因は…昨日の仕事で私を庇ったせいで足をやられたから。標的は一人だったから、その人を捕まえれば終わりだと思っていた。だけど…。


『明!危ない!』

『え?』


突然イヴちゃんの焦った声が聞こえて後ろを振り向けば今すぐにでも私に持っていたナイフを刺そうとしている、きっと標的の仲間がいて。剣は鞘にしまってしまった為直ぐに抜いても防御するのは不可能に近い。それでも諦めたくなくて、剣を抜いたのだがやはり遅かった。迫りくる痛みに耐えようと奥歯を噛んだ。しかし。


『…っ、トレインさん!?』

『油断するなよ、明!』


目の前にはトレインさんが立っていた。ナイフが足に掠り、多量の血が流れてるのが見える。つまり深めだったのだろう。しかし彼は痛みを表情には出さずに相手を殴った。この後標的と仲間を捕まえる事ができ、仕事は一応成功。トレインさんはこれくらい何ともないと平然と告げるのだけど、私達は納得しない彼を無理矢理休ませる為に今日は活動せずにそれぞれ過ごしていた。
私はトレインさんが心配だった。…だって私のせいで怪我をしたんだから。心配になるのは当たり前だと思う。


「…ごめんね、トレインさん。私が油断してたから…」

「そ、そんな落ち込むなって!次気をつければいい話だろ?」

「初めから注意していたらトレインさんにこんな傷負わせなかったのに…」


情けないと、自分に力があったらと心底思う。そうしたら皆に迷惑をかけなくて済むのに。いつもそうだ。私は守ってもらうばかりで。闘った事がない人間が突然闘う事になったのだから当然だと皆はフォローしてくれるけど、やっぱり私は嫌だった。
…単純に、怖い。もし私のせいでまたトレインさんの様に誰かが怪我をしたら。最悪命を落とす事だってあるかもしれない。そう考えると怖くて。震える手を隠す様にきつく握って拳を作れば。


「明」

「!」


名前を呼ばれて軽くだけどペシンとチョップされた。痛くは無いし、寧ろ驚きの方が強くてポカンとしながらトレインさんを見る。彼は笑っていた。一体何に対して笑っているのだろう、と困っていれば穏やかな声と共にトレインさんが言う。


「明の気持ちは嬉しい。けどな、俺達もお前を守りたいと思ってんだ」

「トレインさん…」

「初めはよ、ユヅキやシズクに頼まれたからだった。…今は違うけどな。俺個人として明を守りたい」


トレインさんが放つ一つ一つの言葉が嬉しくて胸が彼の優しさで満たされる。私はいつもこの優しさに助けられて、守られているのだと改めて実感する。ありがとう、と何度口にしても足りないよ。
せめて涙が溢れないように唇を噛む。するとトレインさんは頭を掻きながら今度は困った様に笑う。


「俺は明のそんな顔を見たい訳じゃなくてだな…。…その、笑ってくれ」


照れをはぐらかす様に目を逸らすトレインさんに私は無意識に手を伸ばす。触れたのは彼の頬。両手で触れたから驚いたのかこちらに振り向くと、彼はますます目を見開く。縮まった距離に私も顔が赤くなっているだろうけど、彼も頬を赤く染めていて同じ気持ちなんだと思うとそれだけで充分で。


「守ってくれてありがとう、トレインさん」


言葉と共に上手く笑えたのかは自分ではわからない。…でも、トレインさんが嬉しそうに笑うからもう何でもいい。
…好き。心からあなたが好き、トレインさん。感情が止まらないよ…。
そこでふと思えばお互いに至近距離で見つめあっている事に気づく。ど、どうしようっ!?慌てて離れるのも失礼だし、寧ろ離れたくないのに…じゃなくて!トレインさんに伝わりそうなくらいドキドキしてるのに!


「…明、俺」

「う、うん…」


普段より近くに彼の声が聞こえて余計に胸が高鳴る。一体何を言うつもりなのか。次の言葉までの時間が長くて息が詰まりそう。
トレインさんは緊張しているのか、一度息を吐いて私に言おうと口を開けた時。


「明、そろそろ自分の部屋へ戻ったら…」

「「あ」」


タイミング良くというか、お約束というか…とにかくスヴェンさんが中に入ってきた。前もこんな事あったような。当然スヴェンさんは私達を見て驚く。同時にしまったと小さく呟いて。


「お邪魔だったな」

「違うっての!」

「ち、違うよ!」


慌てて距離を取ればからかうようにスヴェンさんが「離れなくても良かったんだぞ」と笑うけど、私はあれ以上近いままだったら本当に駄目だった。今でも顔から火が出そうなほど熱いのに。
話を戻して一旦スヴェンさんの言う通り部屋に戻る事になった私は彼の部屋を出る前にトレインさんに振り向いて。


「私もね、トレインさんの笑顔が好きだよ」

「…なっ…!?」

「そ、それだけ!また後でね!」


言い逃げとはまさにこの事だろう。私はトレインさんに告げてそそくさと部屋に戻った。顔の熱さを冷ます為に手で仰ぎながら。
トレインさんはトレインさんであの後スヴェンさんにからからかわれたのは、また別の話。










ドキドキが
(伝わりそうなくらい、好き)
 
 
 
 
 


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