各自で街を見回る事になった。トレインは特に見回るといっても面白そうなものはなかった為ゲームセンターで時間を潰していた。しかしそれも長くは続かない。一通りプレイして外に出る。当然ながら人は大勢いて歩いていた。


「明と姫っちは何してんだろうな」


ポツリと呟いてもトレインは探さない。この人混みの中を探すのは到底不可能だとわかっていた。街も広いわけだから余計に。わざわざ連絡するのもどうかと思い、とにかく人に紛れながらももう少し時間を潰そうと歩く。すると突然腕に違和感を感じた。


「…ん?何だお前」


フードを被っている為顔は見えないが体格的に男ではない。違和感の原因は女がトレインの腕に自らの腕を絡ませていたからだ。見知らぬ人にこのような行為をされても正直困るものだ。相手は離す気がないのを悟り、トレインは離そうとするが相手は力を込める事で離す事を許そうとはしなかった。寧ろトレインの腕を引っ張りだす。


「な、何なんだよ!?」


相手が女の為出来れば力づくではしたくなかった。が、あまりにもしつこい様ではしたくもなる。トレインが言葉を放っても相手は無言のまま。するとトレインの体がグッと女の方に寄った。女がトレインの腕を無理矢理引っ張り歩きだす。されるがまま女は狭い通路に入った。そこは人がいなく、少し暗い。辺りに誰もいない事を確認する為か周りを見る女。トレインはその隙に腕を離し女から一歩距離を取る。


「お前誰なんだよ?いい加減顔を見せやがれ!」


我慢の限界だった。無理矢理腕を絡めてくる、無理矢理引っ張ってくる、最終こんな所に連れてこられた+無言で。これがトレインの怒りに触れた。何よりも顔が見えていない為誰かもわからない、という所が一番。知り合いならまだいい。ただ見知らぬ人にされるのは嫌なものだろう。トレインが相手に指をさしながら告げればくすりと笑ったのが見えた。


「あの子とどうなるか…楽しみね」

「!この声…!」


聞いた事がある声が聞こえた。するりと女は指をさしているトレインの腕に触れて距離を詰める。離れようとしたが何かが彼を捕まえていて動けなかった。トレインが何かを言う前に女の唇によって塞がれる。刹那、自分の中に見えない何かが入った気がした。吹く風が女のフードをおろし、顔を見せるようにする。見えたのは茶髪。ーーー彼女の親友の司だと判断するのにそう時間はかからなかった。


「…っ、いきなり何すんだ!」


体が自由になった事を感じたトレインは慌てて司の肩を掴み引き離す。司は満足そうに笑っているだけだ。
嫌な予感がした。不意にこんな所を彼女に見られたら、なんて思ってしまう。トレインの嫌な予感は的中する。ゴトンと物が落ちた音がしてそちらに目を向ければ。


「明っ…!?」


ーーー彼女が、いた。















  第29話  予感















声が出ない。目を逸らせない。足が動かない。頭の中で何度も蘇る先程の光景に何も考えられなくなる。…さっきの女の子は司、で…何で、トレインさんと…キス、してたの…?わからない、わからないけど胸が張り裂けそうなくらいに痛む。


「!」


トレインさんが何かを言う前にトレインさんが両手で肩を掴んでいた司が水になり地面にポチャンと落ちる。水で出来た分身か、とトレインさんが言う。そして自分の唇に触れる。


(妙に本物みたいだったから気味がわりー…。それに何かが入った気がして…)


考えをやめたのかトレインさんが私を見る。何も言えない。今すぐにでもこの場から去りたくなる。落ちた荷物を拾い先に帰ろうとトレインさんに背中を向けて走ろうとしたのだが。


「待てよ明!」

「…っ」


腕を掴まれてしまった。反射的にトレインさんの顔を見れば驚いた表情。…私が、泣いているからだと思う。一瞬だけ緩んだ腕の強さを見逃さないで私は引き離すと今度こそ走った。
 
 
 
 
 


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