「…っと、食パン…」
口に食パンをくわえて私はある事に気づく。これは世に言う「運命の出会い」があるのでは?だって食パンくわえてるし!次曲がり角だし!…はい、私は所謂「夢見る少女」です。ついついそういうのを考えてしまうのがちょっと私の悪い癖…かな。
淡い期待を抱き、ドキドキしながら曲がり角を曲がると。
「きゃ…!?」
「わっ…!?」
見事にぶつかってしまい少しよろめく。う…嘘…。本当にぶつかっちゃった。まさか現実でこんな事になるとは思ってなくて戸惑う。でも、女の子の声だったような…?
「あの、ごめんなさい!大丈夫です…か…」
とにかく座っている相手を立ち上がらせようと手を伸ばす。私の目に映ったのは、同じ制服で茶髪の"女の子"。私は彼女を知っていた。彼女は私を見ると指をさす。
「明!随分遅かったわね!」
「…司…」
「何よ!?」
明らかに残念っぽく言う私に司は余計に怒る。運命の出会いの男の子かと思ったのに、まさかの女の子でしかも司だとは誰が予想できただろうか。
―――私の親友の夕凪司。
中学校からの付き合いで優しい性格。…今は怒ってるから鬼のようだけど。普段は優しいんだけどなぁ。それにかなり可愛いし。
「私は明の事を心配して迎えに行こうと思ったのに、何なの!?この態度は!?」
「ごめんね」
「思ってないでしょ!」
少しだけ笑いながら言ったらまだ怒る司。まあまあ、とブツブツ言っている司を落ち着かせて学校へと足を運んでいく。
「ちょっと残念だったな。せっかく運命の出会いかと思ってたから…」
「…悪かったわね、私で」
また不機嫌になってしまう司。誰もそんな意味で言ったわけじゃないと否定すると「わかってるわよ」と笑われてしまった。あ、良かった。笑ってくれた。
「それにしても、ついに入学式だね!」
「友達出来るかな?」
「どうだろ?私は人見知りだけど司は大丈夫じゃないかな?」
「そうかな…。でも出来れば明じゃない人が良いわ」
「ど、どういう意味!?」
司は時々バッサリと酷い事を言うからけっこう傷つく。私ってやっぱり何処か可笑しいのかな、と考え込むと「ごめん」なんてクスクス笑いながら言われた。私は不貞腐れながらも信号が赤だったから止まった。当然司も止まる。
「…そうだ司。天田君とはどうなったの?」
「なっ…!?どうって…!」
「え?だってこの前誘われてたよね?しかも家に」
「な、何も無かったわよ!」
軽くからかおうと思って言えば信号の赤よりも真っ赤に染める司。え、えっと…無いことが当たり前だと思うんだけど。でも二人ならキスくらいならしてそうだな。この前なんて目の前でされたし。さすがバカップル、と思ってしまったのは秘密にしておこう。
―――天田梓。司の恋人。
元々司と天田君は幼馴染みで、晴れて中学の時にお互い友達以上に大切だと気づき、付き合い始めた。結構私も天田君と仲が良い。…こんな事言ったら司に怒られそうだけど。だけど辛いよね。天田君とは離れ離れになっちゃったし。私だったら耐えれないなぁ…。
「司は本当に天田君が大好きなんだね」
「も、もう…!からかわないでよ、明」
「本当の事を言ってるだけだよ?」
実際司は天田君が大好きだ。見ててわかる。天田君も司が大好きだって見ててわかるし。お互いに似てるんだよね。その時、信号が赤から青に変わって。私は先に車道に出て真ん中で止まり、司に振り返る。
「でも天田君の事で悩んでたら私に言ってね!いつでも力になるからっ!」
私が微笑むと司も微笑んでくれた。
しかし次の瞬間司は驚いた表情になって私に手を伸ばす。その行動が私にはわからなかった。
「明!!危ないっ!!」
「――――え?」
何がと思っていれば突然大きい音が鳴る。そちらに顔を向ければクラクションを鳴らしながら物凄い勢いで此方に向かってくる車がいて。怖さのあまりに動けなかった。…ううん、なんとなく反射的にわかったんだ。
―――――ああ、私は死ぬんだって。
「―――っ、明ーっ!!」
――最期に聞こえたのは、親友の叫び声だった。
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