「!いやがった!」


漸く恐竜の姿を捉えてスヴェンさんが車を止める。目の前では恐竜が街の中で暴れまくっていた。破壊される街、逃げていく人々。急いで止めないと更に大事になるのは明白だった。


「…で、ホントに恐竜[やつ]の足留め役任せていいのか?」


トレインさんが自分の武器である黒い銃…装飾銃[ハーディス]を持ちながらスヴェンさんに訊く。


「一瞬足を止めるだけでいいんだろ?"新兵器"の機能を試すいい機会だ」


「ただ働きは気乗りしねぇけどな」と付け加えてスヴェンさんは箱のような物を持つ。車から降りる二人に続いて私も車から降りた。恐竜へと近づいていく度に逃げている人達とすれ違う。…二人とも全く動じてない。経験の差、なんだろうか。


「?そのケースが新兵器なのか?」

「ああ。こいつがルーベックでギャンザにぶっ壊された愛銃に代わる新兵器―――」


ギャンザという名前に心当たりは無い為、私がトレインさん達と出会う前に闘った人なのは予想がつく。スヴェンさんの銃が壊されたって事は余程強い人だったのだろう。それこそ、道[タオ]っていう能力を持っている人だったのかな。
スヴェンさんが先程車から持ち出した箱を私達に見せるように自身の目の前に出した。


「"アタッシュ・ウェポン・ケース"だ!」

「おおっ!!」

「これが…兵器?」


目を輝かせているトレインさんとは反対に私はまじまじと箱を見ていた。これってアタッシュ・ケース…って言うんだっけ。これが武器になるとは想像出来ないけど。


「…こいつには掃除の仕事に必要なギミックが余すとこなく組みこんである。その上見た目はただのアタッシュ・ケースだから警戒される事もなく標的に近づく事が出来るってシロモノよ!」


そういえば開発に一晩中かけたって言ってたよね。まだ実際にどんな風に武器となるかは見てないけど、スヴェンさんが自信満々に言ってるから本当に凄いんだろう。確かにスヴェンさんが言う通り見た目は普通の箱だもんね。


「へぇー、おもしろそうじゃねーか。…んじゃ…さっそく見せてくれよ」

「言われなくてもな…!」


トレインさんが装飾銃を肩に置きながら目線を恐竜へと向ける。スヴェンさんも頷きながら同じ方向を見ていた。そんな二人の背中を見ながらこんな時に思う事じゃないだろうけど、カッコいいし頼もしいなんて思ってしまう。
すると突然トレインさんが私の方へ少しだけ体を向けて名前を呼んできた。周りの逃げていく人達の声がこの場に響いているのに、彼の声は良く聞こえて。


「俺達から離れるなよ」


そう言って笑った。…正直に言えばもう一度恐竜を見た時やっぱり怖くて。でも、今のトレインさんの笑顔を見て不安など吹き飛んでしまった。トレインさんなら…ううん、トレインさんとスヴェンさんなら、どんな相手にだって負けないよね。
目を閉じて一呼吸を置いた後、真っ直ぐに私を見る瞳に応える様に目を開けて見つめ返す。少しだけ気恥ずしくなるが、「ありがとう」と笑顔で返した。










「…いい具合にこっちへ来やがったな」


私達は恐竜が来る所を予測してその場にいた。そこにあるあらゆる物を蹴飛ばしながらこちらへ向かってくる恐竜は丁度私達の真正面にいる。
段々距離が縮まるにつれて恐竜が如何に大きいし怖い存在なのかを感じるが、私の傍には二人がいる。それだけで不安はなかった。
…それにしてもあの恐竜をペットにしているマダム・フレシアって人を見てみたいよ。この後の処理は色々と大変だろうけど、なんか自業自得って気もするし…。


「トレイン!狙撃の準備はいいか?」

「いつでもOKだぜっ!」


私がそう考える中、スヴェンさんはトレインさんに声を掛ける。縦型の信号機の上に平然と座っているトレインさんは口角を上げて返事をした。確かに一人くらい座れそうな幅はあるけど、こうして信号機の上に座る人なんて多分滅多にいない…よね?この世界の基準がわからないから何も言えないけど。


「…よし」


スヴェンさんがアタッシュ・ウェポン・ケースに何個かあるボタンを一つ押す。するとガコンと音を立てて箱が少し開かれると中から三つの銃口が出てきた。それにトレインさんは凄いと言うように「おおっ!」と声を上げた。


(…狙いは…あれだ!)


銃口を向けた先は四つの柱で支えられている街路灯。銃口から何発も放たれた柱の真ん中部分は徐々に砕かれていき、等々支えられなくなった街路灯の半分は下へと落ちていく。…全て街路灯の落下位置にいた恐竜の首元へと。
突然の衝撃に「…ガァッ」と鳴いた恐竜の動きは鈍りその場に留まった。


「奴がひるんだぞ!!トレイン撃てっ!」

「…トカゲちゃんよ…。パーティーはここらでお開きにしようぜ」


トレインさんと恐竜の目があった気がした。彼が持つ装飾銃の銃口が光り、次には恐竜の左右の指先へと命中していた。


(…これで…。お望みは叶えたぜ。…お姫様♪)


呻き声を上げながら倒れる恐竜を見て周りの人達もや私は安心したのだった。
 
 
 
 
 


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