短編(テイルズ) | ナノ

変わらない


 
 
 
 
 
地面は白。このケテルブルクは雪に包まれていて自分の街だから何度も見ているけどやっぱり綺麗だなと思う。とは言えやはり寒い。慣れたとしても寒いものは寒い。
私は寒い中出来るだけ暖かい格好をしながらとある人を待っていた。手袋を付けているが両手を擦り少しでも暖める。早く来ないかなぁ…。


「名無し!」

「…あ…」


名前を呼びながら駆けてくる男性。特徴なのは赤い長髪。…だったけど、今は短い。髪を切ったのだろう。
少しずつ近づいてくる彼に、前よりも何処か大人になっている様に見える彼に、胸が高鳴る。顔が赤くなっていないか心配になるが、誤魔化す様に大声で叫んだ。


「ルーク!遅いよ!」

「わりーわりー」

「…馬鹿!絶対思ってない!」


咄嗟に雪玉を作りルークに雪玉を投げる。ケテルブルクだ、雪なんて何処を見てもあるので投げようと思えばいくらでも投げれる。一つ彼にお見舞いすればしっかりと謝られた。けれどまだ納得がいかない私は何度何度も雪玉を作って投げた。


「せっかくのデートなのに!楽しみにしてたデートなのに!」

「デ、デートとか口にするなっつーの!しかも大声で!」


ルークとは親同士の仲が良かったから知り合いで自分で言うが仲が良かった。元々私もバチカルにいたのだけど両親がこっちに引っ越す事になったから私もケテルブルクに住む事になったのである。それからルークとは一切会わなかったし連絡も取らなかった。
しかしついこの間、ルークがこの街に現れた。どうやら何か訳があって仲間と共に旅をしているらしい。


「…あのね。わざわざ来てくれてありがとう」

「別にいいって。俺も名無しに会いたかったしな」


彼は私に会いに来てくれた。私は改めて二人きりで会いたいと誘って今に至る。素直に嬉しくて、私は手を止めてお礼を言えばルークも返してくれる。会いたかった、なんてストレートに言われて胸が騒ぐ。以前の彼なら絶対言わなかったから目を細めてじっと見つめれば戸惑いながら問われた。


「な、何だよ?」

「髪切ったんだね。似合ってる」


長かった髪が短くなれば結構印象が変わるものだ。それに凄くカッコいい。正直見惚れてしまう程に。相手はルークなのに。ううん、ルークだから…なのかな。
私の言葉にルークの頬が赤く染まる。目を逸らし、一体何をするのかと訊かれて話を変えたなとは思ったものの、追求せずに返した。と言うか追求したら絶対こっちが照れる。


「何も考えてなかったかな。ただルークとゆっくり話したいしか思ってなかったから」

「何だそれ。なら適当にブラブラするか」


彼の言葉に頷く。私が面白い所を案内してあげようとルークの隣に並んで歩きながら少しだけ横目で見上げてみた。…やっぱり、ドキドキする。その感情が何なのか理解はしているけどちょっと慣れないな。伝わっていたら困る。


「名無し?どうした?」

「別に。…えいっ!」

「うおっ!?」


勘づかれては非常にマズい為無理矢理腕を組んでみる。内心は勿論胸が騒いでいるけど、こうしたくて。
突然の事にルークは驚いていたがそのまま仕方が無いと微笑みながら歩いてくれた。組んでいる腕が暖かい。ずっとこうしていたいな…。





私達は本当に適当にブラブラしていた。時々私がオススメの食べ物を紹介して一緒に食べたり、嫌がるルークに何着も何着も着せて騒いで店員さんに怒られたり。お互いに笑っている。なんて幸せな時間なんだろう。


「これでいいかな」


ある程度ブラブラしたら休憩を兼ねて私達はいつも皆が雪合戦をしている所に行き、散々一緒に行くなんて言われたが直ぐそこだからとルークを待たせて私は暖かい飲み物を買う。戻ってきたら彼は雪の上に直に座っていた。寒くないのかな。…まあ、私は多少慣れてるし隣に座ろう。
自身に近づく足音が聞こえたのだろう。振り向くルークに飲み物を渡した。すると。


「ありがとう」

「…え?今なんて?」

「?ありがとう、だけど?」

「…熱でもあるの?大丈夫?」


お礼を言われた。流石に彼らしくない発言に耳を疑う。だが私の発言に熱など無いと怒りながら否定する所、普段通りという事なのだろう。飲み物の蓋を開けて隣に座り改めて考えてみる。
…ルークにお礼なんて言われた事はなかった…とは言えないけど、直接"ありがとう"なんて言われた事はなかったな。だから驚いたっていうか。確かに今日一日ルークは色々気を遣ってくれたりと優しかった。やっぱり旅をして変わったのかな?


「名無しにまで言われたな…」

「ご、ごめん」

「いいよ。俺酷かったしな」

「…ネガティブ思考にもなったの?」

「反省しているって言えよ」


呆れたように笑うルーク。それにしても私にまで、という事は今旅をしている仲間にも言われたのだろうか。そう考えると面白い。
確かに今までのルークは自分のした事に反省なんて本当にしなかった。自分の思い通りにならなかったら怒るか拗ねるかどっちかだったから、反省したらしたで何か起こりそうで怖いぐらいだったし。それが今や、普通に反省してる。…ああ、でも。
飲み終えた缶を使って雪に文字を書きつつ、私は告げた。


「…ルークって変わったようで変わってないよ。優しい所とか特に、ね」

「…俺、優しかったか?」

「うん。まあ言葉に棘があったり遠回しだったり色々あったけどお礼を言ってくれたし、何度も私を助けてくれてた。ただ素直になれなかっただけじゃない?私にとって今のルークは変わった、というより素直になった、だよ」


一緒に旅をしている訳じゃないからルークの何処が変わったか、変わってないかなんて全て把握する事は出来ない。だけど今日で彼の態度が素直になったのはわかる。だから…変わった様で変わっていない。勿論良い意味で。


「…ありがとう、名無し」


照れくさいのか頬を掻き、感謝を述べるルーク。感謝される必要はない。首を振って彼の名を呼び、微笑む。その後雪に書いていた文字を見せればルークも笑って私と同じ様に飲み終えた缶を使って返事をしてくれる。


『私は優しいルークがずっと好き』

『俺も名無しがずっと好きだった』


本当に、なんて幸せな時間なのだろう。心が暖かくなるのを感じながら私達は寄り添いあったのだった。










変わらない
(あなたの優しさも、何もかも)
 
 
 
 
 




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