短編(テイルズ) | ナノ

望んだ結果


 




「そこのお嬢さん。俺とデートしませ、ぐほっ!?」


はい、今日も良い傘の突きをお腹に頂きました。容赦ない攻撃に、そしてその威力に最早後ろで天響術放たなくても前衛に出てもいいじゃないかと思う。傘最強伝説じゃないか。
自分が招いた結果だけどジンジン痛むお腹を手で抑えながら傘を持っている本人ーーーエドナを見る。なんか冷めた目で見られていた。


「すみません。なんとなく今日はエドナの機嫌が悪いとは思ったんだけど抑えられなくてつい」

「自覚はあったのね。だったら尚更罰よ」


追加で一発叩かれました。しかしこれでも折れない傘に感心する。丈夫すぎないかと真面目に考えていると隠された。あ、なんか変人扱いされた。いや多分随分前からされてた気はするけど。
時刻は夜。僅かに明るい街の中に俺達はいた。他の皆は寝てるかはたまた俺達と同じで外に出て何処かにいるのか、大概どちらかだろう。俺はエドナが外に出るのを見なければ前者だったけど…まあ寝るっていうのも勿体無い感じもするし、いいか。何より夜のデートって良くないか?ロマンチック。ミクリオにもちゃんと俺みたいにエスコート出来る様に教えないとな。断られても無理矢理頭に叩き込んでやろう。


「何か用があって付いてきたくせに何なの?」

「さっきも言っただろ。しょーがない、ご希望ならばもう一回。エドナお嬢さん?俺と一緒にデートしませんか?」


エドナの手を取りそっと手の甲に口づける。それに対しては特に抵抗しない彼女にここまでは許されているのかと感動していた途端頭に傘がクリーンヒット。本日何回目だこれ。でもこの攻撃は…照れ隠しだな。いやー、流石に毎日毎日何回も叩かれていたらどういう意味の攻撃なのかわかってきたわ。ある意味叩かれていて良かったかもな!
思わずニヤニヤしてしまう俺はエドナの手を離し様子を伺ってみる。一見何ともない表情をしているが、微かに頬が赤い。…やっぱり照れてる。可愛い奴だなぁ、本当。


「で、どう?返事を聞きたい」

「…別に…少しくらいならいいわよ」


背中を向けて呟くエドナ。肯定してくれた事がめちゃくちゃ嬉しくて想いを口にしながら後ろから抱きしめてしまった。予想もしていなかったから驚きで体が固まる彼女が愛おしくて、このまま離したくないと思っていたら不意に感じた冷気。足下を見れば徐々に凍っていく。近くにいるエドナからは小声で詠唱しているのが聴こえた。


「ちょ、まっ…!死ぬ!このままじゃ凍死する!悪いエドナ、謝るから止めてくれ!!」

「イヤよ。誰の許可を得てワタシに抱きついたのよ。そのまま凍ればいいわ」

「とか言っちゃってよ、俺が死んだら泣くくせに…あ、待て!更に強くするなー!」

「妄想もいい加減にして。例え名無しが死んでも何ともない」


ああだこうだ言っていたらもう腕まで凍っていた。エドナは俺から離れて俺の発言を嫌がっている表情で見ている。仲間の攻撃で死ぬってどうなんだろう。まあ…最愛の人に殺されるならそれもそれでありかもなぁ…。
ぼんやり考えている中、今度は俺の体を中心に炎に囲まれていた。その炎が氷を溶かしていく。完全に動ける様になったのと同時に炎が消える。


「あのー…。お二人は何を…?」

「ライラ。邪魔をするつもり?」

「あのままでは名無しさんが危なかったからです」


助けてくれたのは仲間の一人である天族、ライラ。彼女も俺達と同じで外に出ていたらしい。で、帰る途中偶然にも俺達の姿を見てしまって今の状態か。どんな理由であれ助けてくれた。お礼を言えば「当然の事です」なんて返される。いやー、やっぱりまだまだ死ぬ訳にはいかないな。生きてやりたい事が沢山ある。例えばエドナと手を繋ぐ、エドナとデートする、エドナと…。


「エドナさん。恥ずかしいからといって名無しさんに危害を加えるのは駄目ですよ」

「名無しが悪いのよ」

「抱きしめるのがそんなに悪いか?じゃあ宣言してからすればOK?」


俺にとっては至って真面目に言ってるのに何故かライラに怒られた。女性の体にベタベタ触るのは良くないだとか宣言してからOKという問題でも無いだとか。ライラってどっちの味方だ。俺を応援してくれると思ったのだが。
…そもそもエドナって俺の事嫌いなのかな。態度的には嫌いなのが結構出てるけど、少しは気を許してくれてる…って勝手に思ってる。よし、訊いてみるか。


「なあエドナ。俺の事好き?」

「嫌い」

「エドナさん、もっと素直に!」

「だから素直に言ってるじゃない。嫌いって」


ライラに口を挟まれても嫌いを連発するエドナに俺は高笑いしてしまった。夜な訳だから人もいないし響くというのについ抑えられなくて、面白くて、それと―――燃えてきて。
高笑いをやめて二人を見れば呆然としていた。普通ならエドナなら力づくで、ライラなら言葉で俺に説教しているだろうに、それすら出来ない二人にちょっと反省。…反省しつつも、エドナに近づいていく。直ぐにエドナは警戒態勢をとるが、俺は足を止めない。ライラは黙って見ている。きっと俺の行動に期待しているのだろう。ま、お望み通りなるかもな?


「エドナ。俺燃えてきたわ」

「…!?」


彼女の腕を掴み壁に押し付ける。反応が遅れて手に持っていた傘が下に落ちる音が聞こえたがそんなのどうだっていい。落ちたのなら落ちたで好都合だ。押し付けた後は簡単、片手で両手を上に挙げさせ縛る。両手を縛った所で足で反撃されそうだが…今は無理そうだな。恐らく頭が状況についていけていないのだろう。ますます好都合。


「嫌いって言われる程振り向かせたくなる…って良く聞くだろ?」


空いている手でエドナの顎に触れて上に上げる。ライラが見ていようが、エドナの唇に触れたい。繊細な彼女を一度乱してみたい。この欲望を抑える術など知らない。
目を見ながら近づけていく。いくら何でも俺がこうしてから声を出さない、しかも抵抗すらしないエドナに少し疑問を抱くがこのまま唇が触れ…。


「…!が、は…!?苦しっ…!」

「ザ、ザビーダさん!?何故止めたのです!」


突然俺のお腹に何かが巻き付きエドナから引き離そうとしてくる。あまりの強さに噎せてしまう俺はなんとかエドナを見てみれば解放された手を見ており、俺の事など一切気にしていない。
しかし俺も俺でエドナを気にかける余裕などない。この巻きついている…ペンデュラムの持ち主である人物を睨む。さっきライラが名前を呼んでいたから誰かはわかっているんだけどな。


「悪いな名無し。あいつの為にもエドナちゃんに悪い虫がつかない様にしないと駄目なんだ」

「だからってもうちょっと加減というものをな…」

「まずは名無しさんを解放して下さい。話はそれからです」


俺の言葉とライラの静かで、だけど何処か怒っている雰囲気を出しているのをザビーダが確認し、仕方がなく俺からペンデュラムを解く。はぁ…助かった…。
ザビーダに邪魔をするなと説教してやろうなんてふざけた事を思っていれば突然俺の体に衝撃。今度は一体誰なんだ。そろそろ怒りのゲージも溜まってきた所で何が当たったのか目に映せば。


「…ん!?エドナさん!?」

「まあ!」

「おいおい、本気か?」


なんと今の衝撃はエドナが抱きついてきたからだった。…って冷静に捉えてるけど、実際抑えるのが辛い。単に逃げる時に転けそうになったからこうなったとか、実はこんな事して俺に攻撃する気満々とか。理由なんていくらでもあるだろう。だから自分にとって都合の良い解釈をしたら駄目だ。駄目、ってわかってるけどよ…。


「…ああもう!これ以上すると勘違いするぞ!?いいのか!?」

「名無しの馬鹿。…勘違いでいいわよ」

「!?」

「名無し。なんて顔してんだよ」


逆にエドナのデレデレ具合に驚きすぎてザビーダとライラにSOSの顔を向けてしまう。だがエドナにとっては気に入らない顔だったのか盛大に俺の体にロックランスをくらわしたのだった。










望んだ結果
(つまり、両想い)




 




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