なんとなくシリーズみたいになってる。栄口視点。



「なんかあった?」
「なんかってなに?」
「んー、一昨日ぐらいから?7組と9組のヤツらの様子が変だな〜って。三橋は一昨日の朝練のとき特におかしかった」
「…おまえよく見てんねえ」
「趣味は人間観察だから」
「うーわー」
「で?なんかあった?」


誰だって痛いのは怖い


今日の放課後はミーティングだけだったからそのまま帰るには早いような気がして、オレと阿部はどちらからともなく(…嘘。今日はオレがさりげなく誘導した)ファミレスに入ってダベり。阿部とは家が近いから、ときどきこうして二人でぶらぶらすることがあって、こういうときの阿部は普段よりちょっぴり優しい。優しくなるだけじゃなくて、少し口数も増える。オレはこの時間の使い方を割と気に入っている。オレは自分のことを話すよりも人が話しているのを聞く方が好きだ。ちょっとした野次馬根性も含まれているといえばそうだけれど。そういう訳であってオレは聞かせてほしいのだった。絶対ナニかがあったんだ。あからさまに練習にひびいているということはないものの、部内の微妙なズレは簡単に見てとれた。うちのチームはみんなして感情が顔に出やすいんだよ。阿部は三橋にわかりやすい表情すんなって言うけれど、阿部自身ポーカーフェイスが得意かというと実はそうでもないんだよな。だからそれで少し様子を窺っていたら、7組9組連中の雰囲気がどうもおかしいと気付いた。三橋は大体いつもどおりだったけれど、阿部は心ここにあらずってかんじで。田島・泉・花井・水谷が二人の投球練習を妙に気にしていて、水谷なんかは特におかしかった。でも阿部は前に一度見たことある表情だったから、まあ大体見当はつくっていうか。

「じゃー栄口はなんだと思うよ?あててみ」
「榛名さんだ。違う?」
「……なに、おまえエスパーなの」
「阿部がわかりやすいんだって」
「まじでか」

はあぁぁ…と大袈裟に溜め息をついた阿部はズルズルと崩れ落ちて「榛名とさあ、」と呻いた。「キャッチボールしてるとこ三橋に見られた」「…それはそれは」思っていたよりもずっとコトは重大じゃないか。またコイツ三橋泣かせたな。

「でもちゃんと解決したよ」
「ホントに?」
「おう」
「ていうかなんでキャッチボール?」
「……オレが知りたいっつの」

阿部が言うには、3日前の晩、なんでかわからないがいきなり現れた榛名さんに拉致られた。で、キャッチボール。ワケわかんねーよ、と締めくくった阿部はとても渋い顔で、とっくになくなったメロンソーダを音鳴らして啜りながら、テーブルの上でうにうにしていた。全然解決してないじゃん。こんな阿部は見たことないなあ。

「榛名さんとは家近いんだっけ?」
「や、そーでもねーよ…歩いて30分以上はかかるんじゃね?」
「じゃあわざわざ榛名さんは阿部に会いにきた訳だ。キャッチボールしに」
「…まあ」
「阿部が言ってたより榛名さんはずっと良い人っぽいよね」
「はあ?なんでそーなんの」
「だって仲良しじゃん」
「んなワケねえ!」

あ、地雷踏んだ。「榛名は!」と阿部が喚く。



――チームのことを練習道具と思ってるサイテー投手で!そりゃ万一故障したらって思うけど、そんでもあれは…前言ったろ?おまえだって最低だと思わねえ?三橋がそんなだったら嫌だろうが、80球なんかでマウンド降りてみろ、ウチ勝てねえよ?実際それで負けた試合があったんだ。投手ってのはマウンド譲らないプライドみたいなのがあってこそだよそうだろ!それに投げたいって思ってくれっからオレも捕りたいって気持ちがデカくなるんだよ、だってオレは、的じゃねえし……









……でも元希さんさあ、オレが武蔵野に来たらよかった、って、言ってた――



「…榛名さんは阿部のことちゃんと捕手として認めてたんじゃん」
「だったらオレここにいねーよ」

間髪いれずに答えた阿部は急に真顔になって、じぃっとオレの目を見つめる。ほんの一瞬だけ阿部の瞳が不安げに揺れたのを、オレは見逃さなかった。

「そんでもいいのかよ。な、いいの?」

無表情を保っているつもりなんだろうけれど、声が震えているせいで気付いてしまった。あまり気付きたくなかったかもしれない。

怖いんだ、必要とされなくなることが。そして阿部は、そうなったときの痛みを、知っているんだね。前に聞いた時には気付かなかったけれど、自分の投手だった人から受けた傷はずっと深かったのだ。仮にもバッテリーやってた相方なんだよ、ことさら阿部にとって大事な人だったハズなんだ。この問い掛けだって本当は、オレじゃなくて三橋に訊きたいんじゃないかな。だからオレはオレ自身と三橋の分の答えを言わなきゃならない。

「ゼッタイにだめだ」
「…そうか?」
「西浦のキャッチャーは、いや三橋の球を捕るのは阿部しかいないよ」
「ホントに?」
「本当に。オマエしかいない」
「……」

阿部は口をハクハクと動かして、一度完全に閉ざしたあと「さんきゅ」と言った。耳をすませていなければ、ほとんど聞き取れないようなか細い声だった。
オレはもう二度と今日みたいな阿部を見たくない。









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