『タカヤへ

タカヤが話を聞いてくれないし、たぶん口じゃうまく言えないし、またケンカになるから手紙を書くことにします。だからちゃんと最後まで読め。

タカヤがオレのことをシカトしはじめて1週間以上すぎました。原因は分かってたしオレもむかついてたから最初はせーせーしたと思いました。あのあとすぐに他のヤツらに謝れってしつこく言われたけど、意地になって謝れなかったし。そりゃちょっとは言い過ぎたと思ってたけど。でもいつもみたいにそのうち元に戻ると思ってました。でも3日たってもタカヤが来ないからオレはだんだんいらついて、練習もつまらなくなりました。キャッチ組むヤツがみんな腰引けてんだ。それで次の日話しかけたら無視されて少し不安になりました。なんとかするようにカントクに言ったら、タカヤに聞けって言われました。オマエ泣いてバッテリー解消するの頼んだんだってな。そんなにいやだったの?しかたないからまたオレはオマエのところに行ったけど、次の日もだめだったし、その次も次の次もダメだったから今オレは不安です。無視すんな。


この1週間で気付いたんだけど、タカヤには他にも投球練習やるヤツがいるのに、オレにはいない。いや正確にはいるんだけど本気じゃ投げられません。それがいやです。それからタカヤが楽しそうにしてたのもすごくいやです。オレと組むときはそんな風に笑わないだろ。なんでだよって思ったけどやっぱオレが悪いんかな。んで、考えたら思い当たるところがありすぎました。だから少しは直したいと思います。ごめんな。あまりひどいことは言わないように注意します。でもやっぱりサイン通りに投げるのはムリだと思うし、オレは投げたいように投げる。そのかわりコントロールはもうちょっと良くなるように努力します。だからタカヤにとってほしい。オレの本気の球をとれるのはオマエしかいないから。
前に言ったことはほんとにごめん。許してください。ほんとはタカヤのこといらないなんて思ってないし、オレにはタカヤが必要です。またオレとバッテリー組んでください。それからこれはできればでいーけど、オレと野球するときも少しは楽しそうにしてください。

はやくタカヤにおもいっきりボールを投げたい。


榛名元希より』







「読んだ?」
「……ハ、イ」

喉の奥がすっぱくなって目頭が熱くなったあと、すぐに視界はぐにゃぐにゃ歪んでいった。手で拭うのも間に合わなくて、ぽたぽた涙が零れて制服の腿を汚す。

「あ、えっ、泣いてる!?なんで!!」
「だっ、て 元希さ、ふっ、う、うっ」
「あーもー!ちくしょう、訳わかんねえコイツー!」
「うぅ〜〜〜ッ」


もうだめだと思っていた。
十日前の日曜日、練習試合のあとのことだ。最近は減ってきたけれど、やはり何球か捕りこぼしたオレは苛ついていたし、元希さんも暴投が目立った。オマケに一球だってオレの指示を見なかった。後ろから元希さんのなじるような声が聞こえて、オレがキレて、あとはいつもと同じ。
でも元希さんの最後の言葉に、オレは自分でもびっくりするぐらい傷ついたのだ。

「もうお前イラネェ、消えろ」


その後は自分で何を言ったかも覚えていない。とにかく監督に練習のペアを替えてもらうように頼みこんで、それからは元希さんのことを避けるようにした。考えたくもなかったからだ。いろいろ我慢してきたけれど、全部水の泡だった。たとえヘタクソと言われようが、上達して見返そうと思ったし、サインを無駄だと言われようが、なんとでもしていつかは技術を認めてもらおうと思っていた。でもオレはキャッチャーでいる意味もないらしい。ぷつんとオレの中で何かが切れた。もうだめなんだ。元希さんと一緒じゃない練習は、少し頼りない気がしたし、時々ちりりと心臓が痛んだけれど、それでも楽しかった。だめなんだから、これでよかった。無理なんだ、あの人とうまくやっていくなんて。だから話しかけられても、適当に言い繕ってその場から逃げた。

そしたら、そしたらだ。

ここ数日で身につけた早業の着替えを済ませ、挨拶だけはきちんとしながら更衣室を出ようとしたら、首根っこを掴まれた。なんとなく分かってはいたがやはり元希さんだった。全力で抵抗を試みるものの失敗に終わり、苦笑いをするチームメイトのみんなが帰って部屋にふたりきりになるまで、なんかもうめちゃくちゃに押し潰されていた。逃げられないように背中からホールドされたまま、乱暴にルーズリーフ2枚を渡される。――それで今に至る。


きれいではないけれど、丁寧に書かれた文字だった。何度も書いては消した跡があった。気持ちのこもった手紙だった。元希さんが、オレと、またバッテリー組みたい、って言ってくれた。


「――で?返事は?」
「…う、あ、」
「わっかんねーよ。つかイエスってことでいーだろ?じゃないと許さねー!」


頷くことしかできなかった。大丈夫だ、オレはまだこの人とやっていける。この人の捕手になれる。もしかしたら、もしかしたら良いバッテリーになれるんじゃないか。なりたい。なりたい!声を出したらまた泣けてきそうで、オレはただ馬鹿みたいに頭を揺らすしかなかった。「あーあ、こんな遅い時間になっちまった」ほら立てよ、と引っ張られたきり、オレと元希さんの手は離れない。鍵を閉めて監督室へ向かうときも、オレは手を離そうとしたのに、元希さんがそれを許さなかった。監督は片眉を上げてこっちを見たあと、何も言わないで笑っていた。
それから二人で、別れ道までゆっくりと歩く。


「元希さん、」
「んー?」
「オレもっとしっかり元希さんの球捕れるように頑張ります」


元希さんがオレの頭を撫でた。










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