「ふーん、まぁ気にすることねーよ」

「でも…」

【幸せを掴む鍵。】

林君が好き。そのことを相川に打ち明けた。
それ以来、相川は私の相談にのってくれる、1番仲の良い男の子。

「お前の好きな林は、そんなことでお前を嫌いになるような奴か?」

事の発端は今日の委員会。
3組の生活委員である私は、昼休みに当番の仕事があるのを忘れていた。
困った先生は、よりによって通りかかった5組の生活委員…林君に、私の仕事をやらせたらしい。
私が思い出して行ったときには、仕事はすっかり終わっていて、林君に謝ることも、お礼を言うことも出来ずに放課後になってしまった。
たしかに、林君はそれだけで人を嫌うような人じゃないけど…

「じゃ、じゃあさ…」

そうだ、電話して謝ろう。直接謝るべきだろうけど、面と向かって話し掛けたりできるか不安だし、今日は金曜日で次に会えるのは月曜日…謝るなら早いうちがいいだろうし。

「ん?どーした?」

「今から林君に電話しようと思うんだけど、」

「ん、終わるまで一緒に居てやるよ。」

私が言い終わる前に、私が言おうとした内容を把握して、しかも頷いてくれる相川は、ほんとに良い人だと思う。

「ありがとう、相川。」

携帯を取り出して林に電話をかける。呼出し音が不安を駆り立てて、思わず机に置かれた相川の手に触れてしまった。

「ん。まぁ林は怒ってないと思うけどな。」

相川の体温が私を落ち着かせる。気づいてるはずだけど、何も言わないでくれる相川の優しさに甘えてしまう。
緊張しながら林君に謝って、電話を切った。

「林君、怒ってなかった。」

相川のおかげだよ。と、ホッとして笑みがこぼれる。そこで手のことを思い出して恥ずかしくなるけど、今更引っ込められなくて、ドキドキと別の緊張が込み上げる。
相川に触れている場所が、少しだけ熱い。

「だろ、」

いつも通りに相川も笑う。ほんとに相川は、優しいな。
何か恩返しがしたい。

「あ、ねえねえ!相川は好きな人とか居ないの?」

相川の恋の相談にのれば、お互い様ってことで調度いいし。

「木村、手…」

「…!」

相川に指摘されて、恥ずかしくなる。ごめん、と謝ってすぐに手を離したけれど、触れていた手がまだ熱い。

「で、相川はいないの?好きな人。」

「…いねーよ、」

恥ずかしくて相川にもう一度聞けば、相川は少し間を置いてから「いない」と言って目を反らした。
この反応…なんとなく解る。相川が誰かに想いを寄せていることが。

「いるんだ、」

「だから、いねーって。」

反らした相川の顔を覗き込むと、相川と目があう。
相川に好きな人がいるとわかって、なんだか心がざわざわと落ち着かないのは、なんで?

「いっつも私ばっかり相談にのってもらって悪いしさ、私も相川の相談にのるよ?」

林君が好き。でも、相川に好きな人がいるのは嫌なんて、私はなんて欲張りなんだ。
相川が優しいからって甘えておいて、相川の相談にのって相川が誰かのものになったら、なんて考えて寂しい気持ちになるなんて。
相川の力になりたいって気持ちは本当なのに。
矛盾だらけ…

「ありがとな、木村」

「…?まだ御礼言われるようなことしてないけど。」


幸せを掴む鍵。


まだ、見つからない。

「なぁ、その相談って恋愛限定?」

「そういうわけじゃないけど…」

「…じゃあさ、俺に料理教えてくんねー?」

その言葉に、少しだけホッとする自分がいる。


10/12/26
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