メガネ越しに見る景色は、いつもどこか淡白で。まるで額縁の中を見るような、感覚。

【キミにあたたかい色の景色を。】

楽しいこともあるし、辛いことも、泣いてしまうこともあった。
でもどこか、そんな自分ですら他人事のように客観している自分に気づいた。
メガネ越しの景色は、どこか私を隔離していて、白黒のその景色が私を包む。

「本堂さん、ごめん。」

俺、今日部活なんだ。と言って、厚いプリントの山と学級日誌を私に託して、真っ白な彼は教室から立ち去った。

1人残された教室。
夕方という時間帯なのにもかかわらず、教室の中は薄暗い。グレーな景色。
見慣れた机の配置、乱雑に置かれた辞書や体操服。そんなものをぐるりと見回して、私は一緒に残された紙の束と向き合った。

「くだらない‥」

部活のために仕事を放棄する彼、この時期特有の悪天候、整理整頓の出来ないクラスメイト、そして何より、律儀に残って日直の作業をする、私。
全部全部、くだらない。
真っ黒な景色。

プリントの束から三枚ずつ取って、ホチキスで止めていく。このクラス‥42人分の資料だから、そんなに時間はかからない。

いつになく静かな教室に、乾いた時計の音が響く。この感覚が、どことなく心地よかった。
一定の間隔でホチキスの音を響かせて、作業をこなす。

「本堂さん‥?」

突然紛れるテノールに、思わず肩を揺らす。
顔を上げれば、部活のために仕事を放棄した、彼‥高橋がいた。
薄暗い教室。いつの間にか降り出した雨はこの時期には珍しく、今日の気温がいつもより少しは高いことを示している。

「もう終わったから。」

最後の一束をホチキスで止める。
乱れたリズム。時計の音と、ホチキスと、それから自分の心臓の音が、私の鼓膜を揺らす。
時計の針は、あれから半分進んでいた。

「そっか‥」

ごめん。そう言って頭を下げる彼は、やっぱり真っ白な景色。
それから彼は困ったように笑って、電気を点けた。
真っ黒だった教室の景色が、真っ白に変わる。

「もう帰るから、電気は消してていいんだけど。」

「こんな暗いとこで作業したら、目が悪くなっちゃうだろうし‥」

自分の言葉は、きっと真っ黒だ。
彼の真っ白な優しさを、いくつもの猜疑で塗りつぶしてしまう。

「仕事、任せてごめん。俺が運ぶから。」

彼はこちらに歩いてきて、柔らかく微笑む。治まったはずの鼓動が、また鳴り響く。警告音にも似たそれは、無意識に彼の優しさを黒く塗りつぶしてしまう。

「部活があるんじゃなかったの?」

「この雨だからね、」

今日は抜けてきた。そう言って、今度はいたずらっぽく微笑んで、私の隣のストーブに手のひらをかざす。
大きくて、ゴツゴツとした、男の子の手のひら。彼のそれは、真っ赤に染まっていた。

「寒いの?」

「外に居たから、少し。」

ヒヤリとした左手が、「冷たいだろ?」と得意げに笑うテノールと共に、私の頬を覆った。

「‥っ!」

また、警告音が鳴り響く。

「ねえ、本堂さん」

突然のことに驚いて動けない私から、彼はメガネを奪って、額に優しくキスをした。

「俺、もっと本堂さんと仲良くなりたいんだけど、ダメ?」

メガネ越しに見る景色は、いつもどこか淡白で。まるで額縁の中を見るような、感覚。
メガネを外した景色は、やっぱりどこか淡白だったけど。


キミにあたたかい色の景色を。


パステルカラーの感情が、私を包む。
警告音は、まだ鳴り響いてた。



2012.02.14
企画:COMPLICEに提出。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -