「はぁ…」

背後に座り込むコルチカムに聞こえるように、わざと大きな溜息をつく。

【可愛いお姫様と無愛想な王子様】

「溜息つかないでよ」

「君がそうさせてるんでしょ?」

そう言って、もう一度溜息をつくと何も言えなくなったコルチカムは俯く。
何故、僕が溜息をついているのか、それは弱いくせに僕についてこようとする、コルチカム自身が1番よくわかってるんじゃないかな。

「…だって、」

「…何?言い訳は聞かないよ」

「だって、飛べると思ったんだもん!」

辛夷の馬鹿と言いながら、言い訳は聞かないと言った僕の言葉なんて無視して言い訳を始めたコルチカムには呆れてしまう。

「辛夷が見回りに行っちゃうから…私もついて行こうと思ったの…辛夷が出来るなら私にも出来ると思ったの…に、」

窓から飛び降りて捻挫、ね。
もう一度溜息をついて、俯いたままのコルチカムに手を差し延べる。

「まぁ、捻挫ですんで良かったんじゃない」

「わ、笑いたいなら笑ってよ」

頬を真っ赤に染めながら見上げてくるコルチカムの手を、無理矢理掴んで立たせようと引っ張る。

「別に…君が弱い事は知ってるし、いまさら…」

「違う…た、立てないのっ」

顔をさらに赤くして、俯いてしまったコルチカムを見て、思わず笑ってしまった。

「…笑わないでよ」

「さっきは笑えって言ったのに」

もう知らないっ、そう言って黙ってしまったコルチカムの身体を溜息混じりに抱き上げる。

「なっ…ちょっと、辛夷!?」

「いつまでも此処に居られると邪魔だよ」

所謂、お姫様抱っこでコルチカムを保健室へ運ぼうと歩く。
久しぶりに抱き上げたコルチカムは驚くほど軽くて、妙に緊張してしまい、自然と保健室に向かう足が早くなった。

「怖い怖い!待って、速い!」

嫌がる君を無視して歩き続けると、さらに暴れだす。
さすがに落としてしまいそうなので、足を止める。

「ねぇ、暴れると重いんだけど。」

「お、重いって…じゃあ降ろしてよ、別に私は持ってほしいなんて言ってないし」

辛夷が勝手に持ち上げたんでしょ、そう言うコルチカムにカチンときた。
なにそれ、僕が一方的にやってるみたいな言い方。
気に入らない、僕は邪魔だから退かそうと思って持ち上げたんだ、別にコルチカムのためじゃないよ。
そう心の中で思いながら、

「ふぅん、なら知らない。」

と、君から手を離す。

「いっ…痛い」

「君が降ろせって言ったんだよ」

芝生に落としたコルチカムは、腰を摩りながら不機嫌そうに文句を言った。

「だからって…」

落とすことないじゃんと、涙目で僕を恨めしそうに見上げるコルチカムは、虐めたくなってしまう程に愛しくて。

「じゃあ、頼みなよ」

「なっ…」

運んでほしいなら、僕に“お願い”しなよ。と言えば、案の定、負けず嫌いなコルチカムは悔しそうな顔をして僕を見上げる。

「…男なら、責任とりなさいよ」

「別に僕は君について来いなんて言ってないけど」

「……」

「………」

「……す」

「何?聞こえないよ」

わざと意地悪をすれば、さらに僕をきつく睨むコルチカム。

「…お願いします」

そんなコルチカムがおかしくて、少し笑ってしまう。

「また笑った!」

笑わないでよと、コルチカムは言うけれど、最初に笑えと言ったのは君でしょ?

コルチカムを抱えて歩く。
今度はゆっくりと、コルチカムを怖がらせないように、少しでもコルチカムを抱きしめている時間が長くなるように。
…そんな事、コルチカムには悟らせないけど。

少しだけ、コルチカムが僕のシャツを握る力が強まった気がした。

「…あ、ありがとう、ねっ」

真っ赤になった顔を隠すように僕の耳元でそう囁いて、僕の胸板にピッタリと顔を付けて目を合わせようとしないコルチカム。


可愛いお姫様と無愛想な王子様


コルチカムがあまりにもピッタリと僕に近づくから、この胸の音が聞こえてしまいそうで鼓動が速くなる。


おまけ

11.03.17
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