貴方が私と同じ気持ちであってほしいと、言葉の意味を仮定する。

【魔法よとけないで】

言葉なんて無くても、私たちは確かに通じ合えていた。
ただ一緒にいるだけで、幸せだと思っていた。

それは、星の綺麗な夜。私は星を見るために近くの丘を目指した。
丘に近づくと、そこには私の特等席に寝転ぶ人影があって、渋々天体観測を諦めようと背を向ける。

「――――,」

突然声を掛けられて戸惑いながら振り向くと、異国の男の人だった。

「あの、私…」

異国の言葉を話せないことを伝えたいのに、伝える術を見つけられないまま、腕を捕まれて丘の上まで歩く。
男の人は身振りを交えて、私になにか伝えたいようだった。

「――――!」

それでも、聞いたこともない言葉を理解できるはずもなく、ただ、動く度にふわりと揺れる彼の星と同じ色の髪と、晴れた日の空のように澄んだ瞳を呆然と見つめることしか私にはできない。

「えっと…、私帰ります。」

伝わらないと知りつつも、一応別れを告げる。
“怖い”というのが本音だった。異国は恐ろしい場所だと教えられていたし、見慣れない色の髪や瞳、そして何より、通じない言葉がとても怖いと思ってしまった。

ふと、彼が空を指差す。つられて見上げれば、たくさんの星が降っていて、思わず声を漏らしてしまった。

「―――.」

その場に腰を下ろして、私を見上げて彼は微笑んだ。
一緒に星を見ようと、言われている気がした。

私も微笑んで、腰を下ろす。それから私たちは、何も話さずにずっと空を見上げていた。
流れる星に願を込めるのも忘れて、ただ見上げる。

「あ…、」

次の日も、私の特等席に彼はいた。彼は立ち上がって微笑んで、私を座らせる。
昨日は怖いと感じていた彼も、何故か今日は怖いと感じなかった。そんなことよりも、揺れる星色の髪が、空色の瞳が、とても綺麗だと思った。
会話はなくても、同じものを見て同じ時間を共有するというのは、親しみがわくのだと気づく。

「私は、夜神星羅と申します。あの、」

次の日、私は大胆にも彼に話し掛けていた。
しかし、今度は彼が困惑する番だった。私の知らない言葉を話す彼が、私の言葉を知っているわけもなく、困ったように微笑む。
この日も彼は私の特等席にいて、それが当たり前というように、私は彼の傍に寄り名前を知らない彼に自己紹介をした。

「――――.」

滑らかな、優しい声が響く。透き通った音の並びは、どこか寂しそうに思えた。
そのあとも、いつものように何も話さずに空を見る。
彼の様子に違和感を覚えながらも、私は不安も感じずに星を見た。

「…あれ?」

次の日、彼は私の特等席にいなかった。
一人で見る空はいつもよりも暗いように感じた。
彼の存在は、いつからか私にとって大切なものになっていた。

「寂しいよ…」

名前も知らない人を、こんなに愛しいと思ったのは初めてで、会えないことがこんなに寂しいなんて、考えもしなかった。
我慢しようと思っても、ぽろぽろと涙が零れる。

「―――,」

聞き慣れた優しい旋律に振り返れば、待ち侘びた星色がふわりと揺れた。
彼のもとに走り寄れば、大きな手が流れた涙を掬う。
その行為にドキッと心臓が跳ね上がり、顔が熱くなる。

「―――――.」

困ったように微笑む彼に私も微笑むと、彼の顔が急に近づく。
突然のことに驚いてギュッと目を閉じると、唇に暖かいものが触れて、すぐに離れる。

「I love you.」

耳元で、彼が何かを囁いた。
それはそれまでと同じように、私には意味がわからない言葉。でも、それまでのどんな言葉よりも綺麗で、儚い言葉だと思った。
急いで目を開けると、そこに彼の姿はなくて、もう二度と彼に会うことは出来ないのだと、感じた。

言葉なんて無くても、私たちは確かに通じ合えていた。
ただ一緒にいるだけで、幸せだと思っていた。


魔法よとけないで


彼との時間はまるで魔法のようだった。
彼の最後の言葉が、その魔法が解けることを惜しむ意味であってほしいと、仮定する。


11.02.07
素敵企画、赤点回避様に提出。
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