×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
日向くんたちのフォローのおかけで、なんとか私は皆と一緒に行動する事を許された。と言っても、やっぱり向けられる懐疑の視線は変わらないのだけれど。苦笑いを浮かべて教室の隅に腰掛ければ、両隣にテツヤくんと大我が座る。心配してくれているのだろう。
「とりあえず、今後の動きを決めましょう」と各校の主将たちが集まって話しているのを見つめながら、握り続けていた指輪をポケットへ戻していると、「あの」と控え目な声とともに、長い桃色の髪が目の前でフワリと揺れる。


『?さつ…桃井さん?と、青峰くん?どうかした?』


現れたのはさつきちゃんと、その後には青峰くんがいる。膝をおって目の前で正座したさつきちゃんにきょとんと目を丸くしていると、言いづらそうに口を噤んでいたさつきちゃんが漸く口を開いた。


「あの、ありがとうございました!」

『っえ?』

「それに、腕の怪我…私のせいで…ごめんなさいっ!!」


そこまで聞いて、ああ。の納得する。どうやら、最初の部屋で彼女をかばった時の事を言っているらしい。「まだお礼を言ってなかったので」と不安そうに付け加えた彼女に、「気にしなくていいのに」と笑って返せば、ぶんぶんと少し大袈裟に首を振ったさつきちゃんが声を上げる。


「そんな…!だって、怪我までさせたのに、」

『私が勝手にしたことだからいいんだよ。それにほら、もう血も止まったよ?』

「けど……」

『…むしろ、私がお礼を言わなくちゃ。さっき、庇ってもらったし』


「ありがとね」と今度はこちらから言うと、とんでもないとばかりに、更に首をふるさつきちゃん。それがなんだか可愛らしくて、つい声を上げて笑ってしまうと、さつきちゃんと青峰くんが2人してポカンとした顔をする。


『?どうかした?』

「…そんな風に笑えんだな。あんた」

『え?』

「さっきから、泣きそうな顔ばっかしてっから、そんな風に笑うの初めて見たわ」


青峰君の指摘に、確かに。とここに来てからの自分を振り返る。みんなの前でこんな風に笑ったのは初めてかもしれない。おそらく、というか絶対、隣にテツヤくんと大我が居てくれるおかけだろう。
「両隣に強い味方が居てくれるからね」と少し悪戯っぽく笑えば、「ふーん」と興味があるのかないのか、なんとも言えない返事が返ってきた。


「……いいなあ。私も、早く苗字さんのこと、思い出せたらいいのに」

「無理だろ」

「む。ちょっと大ちゃん!そんな言い方」

「おまえに、コイツらが言う“化け物”倒せんのか?ソイツ倒さねえと思い出せねえんだろ?」

「そ、それは……」


幼馴染みと言うこともあり、こんな空間でも気軽に話す2人を微笑ましく思いながら見つめていると、チラリとこちらを向いた青峰くんが、小さくため息をついた。


「仕方ねえから、バケモンぶっ倒して、さつきの分まで俺がその何とかっつー石取ってきてやるよ。そうすりゃ、思い出せんだろ」

「え、大ちゃん、それって、」

「…さっさとこんなとこ出なくちゃ、マイちゃんのグラビア写真集の発売日遅れちまうしな」


青峰くんの発言に驚いたはさつきちゃんだけではない。もちろん、私もだ。だって今のは、まるで、


「思い出す気満々ですね」

「あ?」

「けど、あの化け物から石だけ取る方法は知ってるんですか?」

「んなもんどうとでもなんだろ。テキトーだ。テキトー」


ポケットに手を突っ込んで、視線を逸らす青峰くん。なぜ彼が思い出そうとしてくれているのかは分からないけれど、こんな風に言ってもらえるのは正直嬉しい。口元を緩ませ、居心地が悪そうに「行くぞ、さつき」と離れていく背中を見つめていると、くすりと笑ったテツヤくんがおもしろそうに呟いた。


「青峰くんは、感覚派なので、名前さんの事を思い出すべきだと何か感じっとったのかもしれませんね」

『そう、なのかな?』

「そうですよ。きっと。現に同じ“感覚派”の人がこうして思い出してるわけですし」

「…それ、どう考えても俺のことだろ」


テツヤくんの言葉に「青峰と一緒にすんな」と顔を顰めた大我。そんな2人のやり取りに笑っていると、どうやら話し合いが終わったようで、征十郎くんが「皆さん、いいでしょうか、」と声を張った。


「話し合いの結果、先ずはこの建物を探索する事になりました。出口の捜索と、あと、出来るなら、例の化け物を倒しすために」

「…それはつまり、彼女のことを思い出すことも視野に入れる、と言うことでいいんだな」

「はい。一先ず、ここからの脱出方法が分からない以上、彼女の事を思い出すことがここから出る条件になっている、とも考えるべきだと判断しました」


なるほど。そういう考え方もできるのか。
今の私でも皆の役に立てる可能性があると知り、胸の奥が重くのしかかっていた物が、ほんの少し軽くなった気がする。ほんの少しだけ、だけれど。


「捜索のメンバーですが、先ほど、記憶を取り戻したという日向さんと火神には行ってもらいたい。他は、」

「俺が行く。もし、日向たちの言ってることが本当だっつーなら、要はその“化け物”を殺ればいいんだろ」

「…そういうことなら、俺も行かせて欲しい。敵がどんな奴かも確認しておきたい」

「俺も行っていいかな?タイガから話も聞きたいし」

「…俺も。めんどくせーけど」


赤司くんの声に真っ先に手を挙げたのは4人。幸くん、小堀くん、辰也、青峰くん。この中に日向くんと大我を足したメンバーで探索に行くのだろうか。手を挙げたメンバーに「では、皆さんと…あとは、」と征十郎くんは、チラリと一瞬だけ私と目を合わせると、


「俺も行きます」


そう行って、教室の扉へと足を向ける。「しゃあねえ、行ってくっか」と立ち上がった大我と、「大人しくしててくださいね」と念を押すように言う日向くんの2人に、「気をつけてね」とまゆを下げれば、2人は少し乱暴に私の髪を撫でると、征十郎くんの元へと歩いていった。


「…では、行きましょう」


探索メンバーが集まったことを確認した征十郎くんがゆっくりと扉を開く。不気味なほど静かな廊下に出た7人がどうか無事で帰ってきてくれますように。ギュッとポケットの中で握り締めた指輪に、そう、願わずにはいられなかった。
私を忘れないで 5

prev | next