夢小説 完結 | ナノ
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1 心臓破裂


侑と治は私の幼馴染だ。母親同士の中がよく、園児の頃から何かと交流のあった私たちは兄妹のように育ち、今日まで過ごしてきた。保育園、小学校、中学校、そして高校。この腐れ縁がいつまで続くのか分からないけれど、今のところこの関係の終わりは全く見えていない。
そんな侑たちは小学生の頃からバレーボールを続けており、現在も稲荷崎の強豪バレー部で日々練習に励んでいる。「マネージャーやらん?」とおにぎり片手に誘ってきた治に流されるままマネージャーとなった私は、今日もまた朝練参加のために侑と治に挟まれて登校中である。


「侑、お前ええ加減にせえよ。人のモン盗る癖治せや」

「盗っとらんって何べん言えば分かんねん。借りてただけや。返そうと思っとったわ」

「なら今すぐ返せや。借りたもん無くすんは盗んだも同然やぞこの泥棒」


朝から頭上で繰り広げられる口論に深いため息をつく。この双子の喧嘩は特別珍しいことではない。なにせ“男バレ名物”だなんて言われているくらいだ。しかし、しかしである。いくら聞き慣れているからと言っても、聞いていて気持ちがいいものではない。特にこんな早朝は。


『…二人とも朝から喧嘩なんてしないでよ…』

「文句ならこの盗人に言えや。人のパーカー借りパクしおったんやぞ」

「だから、借りパクやのうて、借りただけやっちゅーねん!!何べんも言わせんな!!!」


ガルル。なんて唸り声が聞こえてきそうなほど睨み合う二人。けれど、決して足は止める事はないので、器用だなあ。と毎度毎度感心してしまう。


『侑、借りたんなら返すまでが普通でしょ?勝手に借りておいて失くしたんなら、ちゃんと謝らないと、』

「あ?うっさいはブス!!お前は黙っと「おはようさん、」…………は?」

「おはようさん、お前ら、朝から元気やなあ」


仲裁に入ろうとした私に、侑の罵倒が飛んできたかと思えば、それを遮るように背後から聞こえてきた朝の挨拶。どことなく冷え冷えとしたその声にビクッと肩を揺らした侑と治は、足を止め恐る恐る振り返るとそこに立っていた人物に顔色を真っ青に変えた。


「き、」

「北さん………!」


驚いてい固まる二人を後目に、「おはようございます、北さん」と挨拶を返せば、「おん、おはようさん」とほんの少し目じりを下げてくれた北さんだったけれど、次の瞬間には再び冷え冷えとした冷たーい表情に代わり、侑と治へ視線を移した。


「ほんで?お前ら挨拶はどうした?人から“おはよう”言われたら“おはよう”って返すんが当たり前やろ?小学生でも知っとることやぞ??」

「「おはようございます!!!」」


じっと向けられる冷めた視線に、背筋を伸ばし腰を90度に追った二人が勢いよく挨拶をする。さっきまで喧嘩していたのが嘘のような息ぴったりさに呆れながら金髪と銀髪の旋毛を見つめていると、「朝から元気やなあ」と北さんの後ろから尾白さんが顔を出す。
「おはようございます、尾白さん、」「おう、おはよーさん」と軽い挨拶を済ませていると、「侑、治、」と抑揚のない声で侑を呼んだ北さんの声が聞こえてきて、視線をそちらへ。


「え、あ、は、はい!!」

「な、何でしょう!?」

「元気があるのはええこっちゃ。せやけど、その有馬余っとる元気を喧嘩なんかに使うんは勿体ないやろ。何があったかは知らんけど、高校生にもなってみっともなく喚くもんちゃうで」

「「……はい、すんません……」」

「……それから、侑、」

「え!?な、なんですの!?なんで名指し…!?」

「お前の口が悪いことはもう十分承知や。この短い付き合いの俺でさえ聞き慣れとるくらいやから、幼馴染の苗字は耳にたこができるくらい聞いとるんやろな。でもな、いくら何でも女子に向かって“ブス”はあかん」


一段と声を低くした北さんの言葉に侑の額からダラダラと汗が流れ落ちていく。「す、すんません…」と小さな声で謝罪を口にした侑だったけれど、「俺に謝ってどうすんねん」という一言で侑の身体の向きが瞬時にこちらへと変わる。


「…………………わ……悪かったわ。ブスなんて言うて……お前はブスちゃう。中の上くらいやとは思うで」

「謝る気あるんか?」


謝罪だけ口にすればいいものの、余計なものまで引っ付けてしまうものだから、北さんの瞳が細められ更に鋭いものになっていく。まああの侑が“悪い”と言葉に出来ること自体が奇跡のようなものなのだ。許してあげようと「帰りにアイス奢ってね」と笑って見せれば、渋々といった様子で頷いた侑に漸く北さんが満足そうに息を吐いた。


「用が済んだんやったらはよ行くで」

「せやな」


ため息まじりの尾白さんの声に北さんが歩き出す。そんな彼に倣うように私も歩き出せば、隣に並んだ私に気づいた北さんが、ちらりと視線を投げてきた。


「苗字、」

『?はい?なんですか??』

「中の上でもないと思うで」

『…………は……?』


「俺は、一等かわええと思うぞ」


ふんわりとした微笑みと共に向けられた言葉に、私の心臓はあと一歩で破裂するところだった。



北さんは心臓に悪い
(なんや名前、顔赤ない?)
(赤くない赤くない!気のせい!気のせいだから!!)

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