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大学1年になりました6


あの正邦と秀徳を倒した私たちは無事に決勝リーグに駒を進めたには今大きな問題に直面している。


「ちっっっがう!!」

「いてっ!!」


スパーン!と気持ちいいほど音をたてて火神くんの頭を叩くと、恨めしそうに見上げられる。
恨むならバカな自分を恨みなさい。
まさか決勝リーグの日と補習の日が被るなんて。
盛大なため息をついて「ほら次!」と火神くんにプリントを押し付けると向かい側に座る伊月くんが苦笑いを溢す。


「…そろそろ休憩はさむか?コガや黒子はもう寝ちゃったしな」

「……クソ俺だって寝たいっつーの」


気持ち良さそうに寝息をたてている小金井くんと黒子くんを羨ましそうに見る日向くん。
それをいさめるように「まあまあ」と伊月くんが言ったところでグーと大きなお腹の音がした。


「…腹へった……」

「仕方ないわねえ…」


音の主はもちろん火神くん。
腹は減っては戦はできぬ、なんて言うしね。
何か食べさせてやるか。
小さくタメ息をついて立ち上がると日向くんが不思議そうに見上げてきた。
「監督?どうしたんだよ?」「火神くんに何か作ろうと思って」「「…え?」」「だから、ちょっと料理してくるの」
さあ行こう、と部屋のドアを開けようとすると、さっきとはうって変わって目をカッと開いた日向くんと伊月くんがなぜか扉を塞いできた。


「?なに??」

「い、いや〜…わ、わざわざ監督の手料理を食べさせなくてもいいだろ!」

「そ、そうそう!コンビニで何か買ってくりゃいいだけの話だし!!」


「だよな!」「そうそう!」なんて物凄い勢いで頷きながら目を合わせようとしない二人。
なーんか怪しいような。
ジーっと二人を見つめていると、タイミングがいいのか悪いのかコンコンと扉をノックする音が。


『こんばんは』

「名前さん!?」


お父さんかな、なんて思いながら扉を開けると入ってきたのはなんと名前さんだった。
どうしてここに?しかもこんな時間に。
四人で呆けたまま彼女を見つめていると、そんな私たちなんて露知らず名前さんは右手で小さな紙袋を差し出してきた。


『はい、差し入れ』

「マジか!!サンキュー名前!!」


さっきまで眠い眠いと騒いでいたくせに。
パアッと音がつきそうなほど表情を明るくさせた火神くんは、獲物を見つけたチーターのように袋に飛び付いた。
「お握りとあとは簡単なおかずだけど」「マジでサンキュー!!腹へってたんだよー」
二人のやり取りを聞いていると、伊月くんが思い出したように口を開いた。


「…あの、どうして名前さんがここに?」

『うん?ああ、実は影虎さんから連絡がきて「うちの娘が狼の巣窟にいるけど部屋に入れてもらえないから代わりに監視してくれないか」って』

「あんのクソ親父…!!」


こんな時間にわざわざ名前さん呼びつけるなんて!
「ちゃ、ちゃんと迎えに来てくれたよ?」なんて名前さんは言ってくれるけれど、後で一発殴ってやる。
とりあえず座ってもらおうと名前さんのためにスペースを作ると、そこに座ろうとした名前さんがベッドの方を見て小さく笑った。


『ふふっ、テツヤくんたち、眠っちゃったんだね』

「たくっ呑気なもんだぜ」

「監督のベッドの上じゃなくて、監督のベッドに寄りかかって寝てるだけマシだろ」


はあっとため息をついた日向くんにつられて、つい私と伊月くんまで溢してしまう。


『5人でずっと教えてたの?』

「いえ、途中までは水戸部くんと土田くんもいたんですけど、二人は朝早いからって帰りました」

「土田も水戸部も共働きだしな」

『そっか…。よし、ここからは私に任せていいよ。これでも大我の元先生だしね』


元先生?
どういうことですか?と首を傾げると、「高校受験のとにベンキョー教えてもらってたんす」代わりに火神くんが答えてくれた。


「火神くんに!?勉強を!?」

『うん』

「すっっっごい助かります!!名前さんがいれば百人力ですね!!」

『そんな大層なものでもないけど…』


困ったように名前さんは眉を下げているけれど、実際本当に助かる。
なんだかんだで名前さんには甘えてしまっているなあ。
「よろしくお願いします」と名前さんの手を握ると「うん。よろしくね」柔らかく微笑み返してくれる。
きっと、お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな。

火神くんが食べ終わったのを確認してから再び勉強を始めると、またすぐに火神くんは頭を抱えだした。


「…わかんねえ…」

『ほらほら、すぐに分からないって言わないの。教科書とか参考書とか見てみれば、ヒントはあるよ』


「決勝リーグ、出たいんでしょ?」そう言って火神くんの頭を軽く撫でる名前さん。
少し間をあけてそれに頷いて返した火神くんは、言われた通りに教科書や参考書を開き始めた。名前さんが女神に見える。


「決勝リーグも応援来れそうですか?」

『…んー…実は他にも誘ってくれる子がいて…その子のチームと誠凛の試合は見に行こうと思ってるよ』

「…そう、なんですか」


名前さんの返事に、伊月くんはどこか表情を暗くした。
情けないわねえ。
呆れたように伊月くんを見ていると、「その誘ってる奴ってどこの奴なんすか?」日向くんが首を傾げた。


『桐皇だよ』

「桐皇…ってことは、キセキの世代の青峰大輝ですか?」

『ううん、青峰くんのことも知ってるけど…誘ってくれたのは別の子。主将だよ』


名前さんて、ホント顔が広い。
それもバスケ関連では特に。
ちょっと感心していると、カリカリと真面目にペンを走らせている火神くんを一度見ると名前さんがどこか寂しそうに目を細めた。


『頑張ってね、皆』

「へ?」

『…桐皇には…というより、青峰くんには勝ってあげて欲しいの。だから、頑張ってね』


「当たり前っすよ」「絶対勝ちます」と得意気に笑う日向くんと伊月くん。
それに嬉しそうに笑っているけれど、やっぱり名前さんはキセキの世代となにかあったのだろうか。
お好み焼き屋での黄瀬くんのことといい、少し気になるけれど、なんとなく聞かない方がいい気がした。

聞いたところで、たぶん頼ってはくれないだろうし。

楽しそうに話す名前さんと日向くんの姿が目に入ったとき、ほんの少しだけ音をたてた心臓。
子供じゃないんだから、二人の間にそういう関係がないのは分かってる。
分かってはいるけれど。
その間に入ることができない自分が、酷くもどかしかった。

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