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HQ総合病院麻酔科医11


『で、何で私まで呼ばれてるわけ?』


目の前にいるのは、夜久、澤村、金田一、菅原、花巻、そしてここ、救命の医局長でもある烏養さんだ。
昼休憩(仮眠)の時間を潰されて呼ばれたので、少々機嫌が悪いのは許して欲しい。腕を組んでジト目で救命医達を睨むと、金田一からは目を逸らされ、夜久と澤村からは苦笑いが返ってきた。


「悪い。ホントは苗字は呼ばないつもりだったんだが、予定が変わってな」

『ふーん…で?何で私がここにいるわけ?』


さっさと本題に入ってくれと、近くにあった椅子に腰掛けると、吸っていた煙草を灰皿に押し付けた烏養さんが徐に1枚のカルテを見せてきた。見ろ、ということなのだろう。
仕方なく手を伸ばしてカルテを受け取り目を通すと、カルテの患者さんは、昨夜運ばれてきた高校生の女の子らしい。手首を切ったことに気づいた母親が、慌てて救急車を呼んだことが幸をそうしたのか、傷も深くはなく命に別状はないようだ。


『…菅原がいる理由は大方分かったわ』

「切ったのが左手だったのが不幸中の幸いかもな」

「…え?なんでですか?」

『利き腕じゃない方、つまりは左手で切ると、加減出来なくてザックリ行っちゃうことが多いからよ』


金田一の問いかけに、手首を切るジェスチャーをしながら答えると、金田一は顔を青くした。救命医がそんなことで青くなってどうするんだ。呆れたように肩を竦めて、もう一度カルテに視線を落とすと、目に入った文字に眉間の皺が深まった。


『…なるほど、花巻もいるわけだ…』

「はは、俺も烏養さんから連絡きたときは何事かと思ったよ」

『手首切ったのも、これが原因でしょうね』


読んでいたカルテを机に置き、カルテの一番下に書かれた文字を指さす。

“妊娠有”

まあ、つまりはそういうことだろう。
思わずため息をつくと、いつの間に用意したのか、夜久からコーヒーの入った紙コップを渡された。
お礼を言って受け取り、一口飲んで落ち着く。インスタントともこれだから馬鹿にできない。


『…まあこの患者さんのことは分かった。菅原と花巻がここにいる理由も理解できた。けど、未だに私が呼ばれた理由が分からないんですけど?』

「あー…それは、俺から説明するよ」


烏養さんに向けたはずの質問に手を挙げたのは菅原だった。申し訳なさそうに眉を下げる彼に、紙コップを机に置くと、気まずいのか頬を掻いた菅原が言いづらそうに口を開いた。


「うちの精神科にいた、田中さんがさ、その…産休に入って…」

『へえ、田中さんが』

「それでその…田中さんの穴埋めに来た子が、つい1ヶ月前まで外科の方に居た子でさ、なんていうか…心のケアとか、そういうのが半人前っていうか…」

『ちょっと待って。まさか…私にこの子のメンタルケアしろって言うの?』


まさかと思って菅原の言葉を割ってそう言うと、肯定の代わりのように「悪い」と苦笑いが返ってきた。いやいやいや、いくら何でもそれは無理だろう。
看護師や医者の真似事ならある程度は出来る。何故なら幾度となく見てきたからだ。けど、それもある程度だ。いくら何度も目にしたからといって、完璧にこなせるわけがない。
それを、今まで見たこともましてやったことすらないメンタルケアをやれと?素人に毛すら生えてない程度の私がそんなことして、大丈夫がわけがない。
頬を引き攣らせていると、隣に座る花巻が慰めるように肩を叩いてきた。


『……田中さん、どうして産休入っちゃったよ…』

「そう言わないでやってよ。田中さん、ほとんど諦めてたから、子供できて凄く喜んでたからさ」

『…いや、うん。…おめでたいね…それはおめでたいんだけどね…』


明後日の方向を見て薄笑いを浮かべると、「頼むよ」菅原が両手を合わせてお願いしてくる。クソ、爽やかイケメンめ。


「菅原からの許可があるなら、まあ大丈夫だろ」

『ちょ、烏養さんまで何言ってるんですか!』

「しょうがねえだろうが。他に頼める医者がいねえんだよ。うちは女医すくねえしな」

「まあ、こういう問題は同性同士の方が話しやすいこともあるだろうしな」


あれ?なんかこれ決定の流れに進んでない?
強ばった顔で菅原を見ると、いっそ清々しいほど綺麗な笑顔が返ってきた。マジかよ。

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