3歳児になりました
浴びるほど飲んだお酒で目の前がフワフワと揺れる
なんとか起き上がってベッドに移動したいのに、体は言うことを聞いてくれず、クラクラと頭が揺れる。
『(…飲みすぎた…)』
揺れる視界の隅に見えたのは机の上だけでなく、床にも転がるビールの缶や焼酎瓶。
朦朧とする意識の中、真っ暗になった視界で聞こえたのは、付けっぱなしのテレビの砂嵐の音だった。
「名前ちゃーん?朝よー?」
聞きなれない声が自分の名前を呼ぶ。
誰の声だろうか、あたしは独り暮らしのはずなのに。
ゆっくりと目を開けると、視界に広がったのは人の良さそうなおばさんの顔。
「あら、おはよう、名前ちゃん」
にっこりと笑ったその人は「ご飯だから、おっきして、おいでねー」と言って部屋から出ていく。
いやいや、とりあえず、ここはどこなのだろうか
さっきまで自分の部屋でビール片手にテレビを見ていたはずだ。
ボーッとした頭でキョロキョロと周りを見渡すと目に入るのは可愛らしい部屋の飾りたち。
まるで幼児の部屋だな、なんて思いながら自分のものとは思えないベッドから降りたとき。
『…え?』
見えたのは自分の足、それもかなり短い。
確かに元々長い方ではなかったけれど、こんなに地面と近いほど短かった覚えはない。
恐る恐る自分の手を見てみると、なんだか柔らかそうな小さな手が目に入るの。
嘘だ、そんな気持ちで部屋にあった全身鏡の前に向かって、自分の姿を映すと。
『…嘘だ、』
心のなかでとどめたはずの言葉がいつのまにか口から溢れていた。
どうやら、私は…
三歳時に退化してしまったらしい
呆然として口を開けたまま固まっていた私のめに入ったのは首にかかったキラリと光るものだった。
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