夢小説 完結 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

case25 宮地清志


合宿3日目の朝。気分は最悪だ。


昨晩今吉翔一と別れたあと部屋に戻ってきたものの、ほとんど眠ることができなかった。目の下にうっすらとできてしまった隈がその証拠である。
げんなりした顔で朝食をとっていると、「大丈夫ですか?」相田リコに心配されてしまった。
それに大丈夫大丈夫と笑ってみせたものの、実際は眠くて仕方ないものだからつい欠伸が漏れてしまう。
こんなんで今日一日やっていけるだろうか。
そんな心配も杞憂に終わった…はずもなく。


「病み上がりなんだから無理すんな!轢くぞ!!」

『…すみません……』


案の定というか、相田リコと桃井さつきの手伝いをしている途中でついふらついてしまった。
それをたまたま近くにいた宮地清志が抱き止めてくれて、そのままほぼ強制的に部屋へと連行されてしまった。
昨日に引き続き、こっちの私は随分と病弱に思われているに違いない。
宮地清志が合宿所のお手伝いさんに頼んで敷いてもらった布団に寝かされて、「寝ろ、でなきゃ焼く」なんて言われるあたり、宮地清志には寝不足だとバレバレらしい。メイクで隈を隠すべきだったかな。


『ごめんね宮地くん…ちゃんと大人しくしてるから、もう練習に戻っていいよ』

「いーや、ダメだ。お前が寝るのを確認してから戻る」

『…宮地くんて心配性なんだね』

「苗字限定でな」


…そういうの、狡くないですか。
顔を隠すように布団を被ると、そんな私を見透かしたように宮地清志が笑ってくるものだから、なんだか更に恥ずかしくなってきた。
寝ろっていうわりに、これじゃあ寝にくくてしょうがない。「やっぱり練習に戻って」と言って頭のてっぺんまで布団に入ると「悪い悪い、もう邪魔しねえよ」布団越しに宮地清志に頭を撫でられた。


「にしても寝不足って…昨日なんかあったのか?」

『…半分は宮地くんのせいですね』

「じゃあ、もう半分は?」

『…』


もう半分。
それはあの腹黒眼鏡のせいだ。


“好きや”


いつもは読めない笑みを浮かべている今吉翔一が、真剣な…でもどこか愛しいものを見るような優しい目をして言ってきた台詞。
あの言い方だと、今吉翔一は黒じゃない。黒じゃないからこそ、恥ずかしくなってくる。どちらにしてもたちが悪い。
布団の中で宮地清志の問いかけに押し黙っていると、小さなため息が聞こえてきた。


「…なんかあれば言えって言っただろ?」

『…ありがとう…だけど、自分の問題っていうか…宮地くんに相談するほどのことでもないっていうか…』

「…とりあえず、俺には言いづらいことなんだな」


図星。というか、宮地清志でなくとも言いづらい。
無難な答えを探していると、さっきよりも大きなため息をつかれてしまった。怒らせてしまっただろうか。宮地清志はこの世界の中でも数少ない信用できる人物なので、できることなら面倒な拗れかたは避けたいのだけれど。
布団のせいで見えない宮地清志の表情を確認しようと、ソッと目の辺りまで覗かせようとすると、ガバッと布団を剥ぎ取られた。


『うえ!?ちょ、ちょっと!!』

「人の目を見て話すってことも知らねえのか?あ?」

『うっ…』

「…別に、無理矢理聞こうなんて思ってねえよ。けど…助けが欲しいって思ったとき、俺がいること忘れんじゃねえぞ。いいな」


宮地清志は優しい。優しすぎてなんだか鼻の奥がツンとした。「ありがとう」と笑って返したけれど、ちょっとだけ震えた声に気づいたのか、宮地清志の大きな手が髪を少し乱暴に撫でてきた。


「…そろそろ戻るわ」

『…寝るまで見張っとくんじょなかったの?』

「居て欲しいならいてやるけど?」


どこかからかうように言いながらも、宮地清志は腰をあげようとした。
なんだ、本当に行ってしまうのか。
そう思ってしまうと自然と手が伸びてしまった。


「…おい、なんだこの手は?」

『あ、あはは……な、なんだろ?なんか無意識に…』


ゆっくりと伸ばした手は宮地清志を引き留めるように彼のジャージの裾を引いた。なんだこれ。これじゃまるで行ってほしくないみたいじゃないか。
今更引っ込めることもできなくなった手に困っていると、宮地清志がどこか複雑そうに後頭を掻いてからあげようとした腰をまた畳におろした。


「…10分で寝ろよ、でなきゃ轢く」


目を合わせずそう言った宮地清志。どうやら寝るまでここにいることにしたらしい。
ちょっとだけホッとして「うん」と頷くと宮地清志が頬を隠すように頬杖をついた。でも、耳が赤いのがバレバレですよ。
バレないように笑ってから瞼を閉じると、昨晩の寝つきの悪さが嘘のように穏やかに意識を夢の中へと落とすことができた。

prev next