夢小説 完結 | ナノ
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case9 青峰大輝


私、厄年だったのかもしれない。
いまだにこの長すぎる夢が覚めてくれないなんて。
夢を食べてくれるバクでも現れてくれないだろうか。
携帯を触りながら小さく息をついていると、ガラッとノックもなしにいきなり病室のドアが開かれた。


『っ、え…?』

「…」


入ってきたのは、なんと俺に勝てるのは俺だけだエース様だった。
なんでここに彼が?
目を見開いて色黒の彼を見つめていると、ソッと目を細めた青峰大輝が手を伸ばしてきた。
ゆっくりと頬を包んだ大きな手。
なんだか凄く熱い。


「…記憶、」

『え?』

「記憶、マジでねぇの?」

『え、えっと…はい…』

「…そうか…」


寂しそうにそう呟いた青峰大輝の表情は、まるで…漫画の中で見たアノときの…バスケを楽しむことができなくなったときの顔に見えた。


「青峰大輝、桐皇学園1年だ」

『え?』

「覚えてねえんだろ?」


ああ、自己紹介をしてくれたのか。
「苗字名前です」と返すと「知ってる」可愛いげのない返事を返された。
まあそりゃお見舞いに来てくれるくらいだし知ってて当然か。


『…えっと…わざわざお見舞いに来てくれてありがとう』

「…別に、暇だから来ただけだしな」

『あーうん、そっか。でもまぁ来てくれたわけだし…』


「ありがとう」ともう一度お礼を言うと、青峰大輝はそっぽを向いてしまった。
あ、でも耳が赤い。
可愛い所もあるじゃないか。
ふふっと小さく笑っていると、ジロリと青峰大輝に睨まれてしまった。
それに「ごめんごめん、ついね」と謝ったとき、ギシリと白いベッドが軋む音がした。


『…え?あ、あの…』

「傷とか残ってねえんだな?」

『へ?あ、う、うん。担当医の人にも傷は残らないって言われたよ』

「そうか…」


ホッとしたように息をはいた青峰大輝。
本当に心配をかけたようだ。
なんだか申し訳ない。
「心配してくれてありがとう」と笑いかけると、青峰大輝はスッと目を細めてまた頬に手を伸ばしてきた。
…あれ?なんかこの感じ危ないような…。


『…あの…えーっと…』

「別に傷が残っても、どうせ俺が貰うんだからいいけどな」

『は、はい?貰う!?』

「言っとくが、記憶がなかろうが関係ねえから。忘れたんなら思い出させてやるよ」

『ちょ、ちょっと待って!!』


頬から肩にうつった手はその体を押そうとしてきた。
ヤバい…!
慌てて青峰大輝に制止をかけると、「なんだ?」と面倒そうに顔をしかめられた。


『え、えーっと…私たちは、その…どういう…?』

「あ?」

『だ、だから!その…まさか、つ、付き合ってるとか…?』

「はあ?何言ってんだよ?」


え?違うの!?
パッと顔をあげて青峰大輝を見ると、「んな当たり前のことも忘れてんのか?」の面倒そうに眉を寄せられた。
いや、あんたのこと忘れてんのになんで付き合ってることは覚えてると思ってんの?
あ、やっぱりこいつアホ峰だ。
「覚えてないに決まってるでしょ」つい呆れたように言うと、青峰大輝は更に眉を寄せた。


『え、な、なに…?』

「…なんで嫌がるんだよ?」

『なっ、なんでって…あ、青峰くんと付き合ってたこと覚えてないし…』

「んなもん知るかよ」

『…は?』

「忘れてようが覚えてようが、お前が俺のだっつーことには変わりねぇだろうが」


な、なんて奴だ!
ケロリとした顔でそんなことを言ってのける何様俺様青峰大輝に顔をひきつらせていると、そんなことにも気づかないアホ峰は再び肩をベッドに倒そうとしてきた。


『ちょっ、ま、待っててば!!』

「あ?もう待たねえよ」

『っ!?んっ、』


力任せに押し倒されれば一般的な女子高生の抵抗がもちろん敵うはずもなく、体がベッドに沈められる。
慌ててとめようとしたけれど、縫い付けられた両腕を動かすこともできず、まるでぶつけられるよつに口付けられた。
ヤバい…!これはヤバい!!
他の人ならともかく、青峰大輝は本当に危ない!
なんとか逃れようと足をジタバタさせてみたけれど、びくともすることなく、逆にザラリとした熱い舌が差し込まれた。


『ふっ、ん…やめっ……』

「っ、えっろい顔だな。そういうとこ、やっぱ変わってねえじゃねえか」


悪い笑みを浮かべて見下ろしてくる青峰大輝が、もはや野獣にしか見えない。
入院用の服に、やけに体温の高い手が入ってくる。
いくら夢だからといって、こんな初体験なんて絶対に嫌だ!
ギュッと目をつむって「覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ!!夢よ、覚めろ!」と念じたとき。

コンコンとノックされた人物に、こんなに感謝するのは初めてだ。


「…ちっ、んだよいいとこなのによ」

『い、いいから退いて!!早く!!』


「ヘイヘイ」と唇を尖らせながらベッドから降りた青峰大輝。
よかった。私の処女は守られた。
ホッとしながら、まだドキドキとうるさい胸をおさえて「ど、どうぞっ」と扉に向かって声をかけると、ゆっくりとドアがスライドされた。


「どうも、苗字さん」


そこから入ってきたのは、綺麗な空色の髪をした、主人公くんだった。

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