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8 神の子と銀髪の再三


「綺麗、」


今日も今日とて仁王先輩の献上品であるチョコレートを沖田くんへあげた。
そのとき、黒崎くんからの微妙な視線が飛んできて、なんだか居づらくなって逃げるようへ来たのが中庭。
この間は気づかなかったけれど、そこの花壇の一角はとても綺麗に整備されていて、色んな種類の花が咲いていた。


「ふふ、ありがとう」

『え、』


じっと花を見ていると後ろから聞こえた声に驚いて振り向くと、柔らかな笑みを浮かべた藍色の髪の男の人がたっていた。


「この花壇、俺が手入れしてるんだ」

『え、そうなんですか?』

「うん、だからほめてもらえて嬉しいよ
ありがとう、苗字さん」


にっこりと笑ってくるその人に「あれ?」と首を傾げる。
確かこの人とは初対面のはずなのに、どうして名前を知っているのだろうか。
そんな、私に気づいてか、面白そうに「ふふ」と笑った藍色さん。


「俺は君に迷惑をかけている、仁王と同じ部活でね」

『え…』


仁王、という言葉に思わず構えてしまうと藍色さんが困ったように眉を下げた。


「そんなに気を張らなくていいよ?」

『え、あ、…す、すみません』

「いや、こちらこそ仁王が迷惑をかけてすまない」


「幸村精市です」とてを差し出してきた幸村先輩。
慌ててその手を握ると、さっき見た柔らかな笑みを向けられた。


「…苗字さんは仁王が嫌いかい?」

『え?…嫌い、というか、…苦手です
まるで女を馬鹿にしてる感じに見えて…
初めて見た、余裕ぶった笑みが特に苦手です』


握手していた手を離して地面をかけて見つめながら言うと、何故か幸村先輩はクスクスと笑い始めた。
別に面白い話をしたつもりはなかったので、不思議に思っていると、「ああ、ごめんね」と眉を下げて謝られた。


「…余裕ぶった笑み、か…
多分アイツは君が思ってるほど荒んだ人間ではないよ?」


「むしろ、俺からした子供っぽいな」と目を細めて笑う幸村先輩。
子供っぽい、その言葉に銀色の髪を思い浮かべるとどうしても首を縦にふるきにはなれなかった。


「…もしよかったらだけど、少しだけでも話を聞いてあげてくれないかな?」

『話、ですか?』

「うん、
その方がいいよね、仁王?」

『え?』


幸村さん視線が私から外れてその後ろに移った。
まさかと思い振り向くと、立っていたのはばつの悪そうな顔をした話題の人物。


「…幸村、余計なことを言うんじゃなか」

「でも、早く解決してもらった方が俺としてはありがたいしね
練習に集中してもらわないと」


「それじゃあ、またね苗字さん」と手を降って笑顔で離れていく幸村先輩。
今だけその笑顔が憎らしい。


「『…』」


目の前の仁王先輩との間に流れる沈黙が痛い。
もぅこのまま教室に帰ってしまおうかと思ったとき、仁王先輩が口を開いた。


「…すまん…」


あの日からもういいと言うほど聞いている台詞に眉を寄せる。


『…本当に思ってるんですか?
女の子なんてちょっと優しくして、物でもあげれば喜ぶ、簡単なものなんて思ってるんじゃないんですか?』


叫ぶように言うと、ぎょっと開かれた仁王さんの目。
それからふっと自嘲気味な笑みを漏らされて、思わずドキッとした。


「…なるほどのぅ、何をやっても機嫌が悪いんはそういうことか」

『…だったらなんなんですか?』

「まさかそんな風に思われてるとは思わんかった、すまん」


ガシガシと綺麗な銀髪をかいて、また謝ってきた仁王さん。
そんな彼に更に眉を寄せて自分ができる限りの睨みを見せる。


『謝ればいいってものじゃないんです』

「そうかもしれん、じゃが、これ以外の謝罪の仕方などしらないんでの」

『今までも都合が悪くなったら、そうやって女の子に頭を下げてきたんじゃないんですか?』

「そんなめんどくさいことはせん、お前さんが初めてじゃ」

『え、…』

「謝る、なんて他にしたことなんてなか」


下唇をつきだして、少しだけ頬を赤くしてそんなことを言う先輩。
嘘だ、と言おうとした口もそんな先輩の様子に開かなくなってしまった。


『…じゃあ、なんで…』

「…泣き顔、」

『え?』

「今まで、女の泣き顔なんて嫌というほど見てきた。
じゃが、お前さんのは今までの女とは違った」

『違うって…それって泣かした罪悪感で今まで私に謝って来てたんですか?』

「…まぁ…」


なんだそれは、とツッコミたくなった。
相手を泣かしたから、自分が悪いだなんて、そんなの子どもの考えだ。

ふと幸村先輩の「俺からしたら子供っぽいな」と言う言葉を思い出す。
彼の言うとおりな所もあるのかもしれない。
目の前で罰が悪そうに立っているこの人の全てを悪いものとして見るのは間違っているのかも。

そう思うとなんだか今までの自分がバカらしく思えてきて『ふふふ』と笑みを溢すと、仁王先輩が驚いたように見てきた。


『ふふ、分かりました、先輩、仲直りしましょう』

「…ええんか?」

『なんだか、怒ってるのもバカらしくなって、
その代わり約束、してくれませんか?』

「何を」

『“女”を軽くみないで下さい』


真っ直ぐに先輩を見て告げると、少し目を見開いてから、先輩は「分かった」と首をふった。


『それから、もぅお詫びの品もいりません』

「…分かった」

『ああ、それと…
苗字名前です、改めてよろしくお願いします』


スッと先ほど幸村先輩としたような握手を求めると、先輩も「仁王、雅治じゃ」と言って握り返してきた。
そのときの先輩がなんだか可愛く見えたのは、多分気のせいではないと思う。

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