5 詐欺師な銀髪再び
結局、昨日は黒崎くんになにも言わずに帰ってしまった。
謝らなければ、と思っているとタイミングよく靴箱でオレンジの髪を見つけた。
『黒崎くん、』
「ん?…ああ、苗字か、はよっ」
『うん、おはよう。…昨日は勝手に帰ってごめんね』
「いや、俺こそお前と途中ではぐれちまった訳だし…」
「悪かったな、」と眉を下げて謝ってくる黒崎くん。優しいな、と思いながら首を横に降ったとき、ちょうど二年生の教室がある階についた。
「なぁ、あれって仁王先輩だろ?何してんだ?」
「さぁな、誰か怒りでも買ったんじゃねぇの?」
『におう先輩?』
聞き慣れない名前に首を傾げて自分の教室の方を見ると、
『っ、』
「ん?あれ?仁王先輩、うちのクラスに用事か?」
見つけてしまったのは担任とは違う銀髪。
まだ来て間もないこの学校にいる銀髪の人は担任と、あとはもう1人しかしらない。
逃げようと、体の向きを変えて走りだそうとすると、隣にいた黒崎くんが「苗字?」と不思議そうにあたしを見た。
「ほ、保健室に…」そう黒崎くんに告げて足を出したときだった。
「待ちんしゃい、」
『な!』
「…逃げなさんな…」
優しげに聞こえる声の主はあたしの腕を掴んで動きをとめた。
顔を向けずに腕を振り払おうとしたけれど、やっぱり相手は男の人ということもあってびくともしてくれない。
「…お前さんに用があってきた」
『私はありません!離して下さい!』
「…すまんかった…」
ザワリと仁王先輩の言葉に周りが騒ぎ始める音がした。
腕を離して頭を下げた先輩に隣にいた黒崎くんが目を見開いていた。
『…謝れば、なんでも許してもらえるんですか?』
「…いや、」
『だったらどうぞご自分の教室にお帰り下さい、あたしはあなたを許すつもりなんてありません』
「失礼します」そう言って横を通り過ぎようとしたとき、「…また来る」という先輩の小さな声が聞こえた気がしたけれど、それに答えることはしなかった。
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