夢小説 完結 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

Cinderella 6


3日目の舞踏会が始まった。

今朝、皆に昨日の夜赤司くんに伝えたことを話すと、誰も反対しなかった。

“ハッピーエンドじゃなくてもいい”

華やかな衣装に身を包んで踊る人達を見ながら、考えてしまう。花宮さんのことを。
私は、花宮さんが好き。
でも、想いが届くとは限らない。
花宮さんには、他に大切な人がいるかもしれない。
それでも、

“自分の気持ちに嘘はつきたくないから”

赤司くんに言った台詞を思い出して、ゆっくり息をはく。
幸せなエンディングじゃなくたって、いい。
自分に正直にいられたらいいんだ。
会場に響く音楽を耳に残しながら、足を大きな扉の方へ向ける。
まだ12時ではないけれど、いいだろうか。
チラリと隣の高尾くんと緑間くんを見ると、二人は頷き返してくれた。
これで、物語が終わりますように。
そんな願いを込めて扉を開けると、外のひんやりとした空気を感じた。


「良かったのか?赤司たちには何も言わずに出てきて」

『うん。ガラスの靴は置いていかないってことは伝えてあるから…大丈夫』


「そうか」と緑間くんがうなずいたのを見てから、階段を下り始める。
だんだん小さくなっていく音楽が、少しだけ寂しく聞こえる。
ハッピーエンドじゃなくてもいいの。
ただ、花宮さんを好きな気持ちに正直でいられたら、それで。
たとえ、それが通じない思いだったとしても。

最後の一段をおりたとき、「苗字さん」柔らかな落ち着いた声に名前を呼ばれた。


『黒子くん?どうしてここに…?』

「僕は魔法使いですから、どこにだっていけます」

『でも、本当の物語ではここで魔法使いさんは出てこないし…』

「物語を作るのは、“僕たち”ですよ」

『え…』

「いろいろな終わり方の物語はあります。でも…僕はやっぱり、ハッピーエンドの方が好きなんです」


そう言って優しく笑った黒子くんは、手元の杖を一振り。
何をしたんだろう?
キョトンとしたまま黒子くんを見つめていると、黒子くんがソッと目を伏せた。


「…あとは、君次第です」

『え?私?』

「ちゃんと、幸せになって下さい」


どうしてそんなことを言うのだろう?
思わずそう聞きそうになったとき、後ろから声が聞こえた。
私の、好きな声が、聞こえた。


「いつまで気づかねえつもりだ、ばあか」

『っ!な、んで…』


振り向けば、そこにいたのは私の大切な人。
初めて、好きになった人。
ハッとして黒子くんを見ると、少し意地悪く「魔法使いに不可能はありませんよ」と微笑まれた。
さっきの魔法は、花宮さんを呼ぶものだったというこだろうか。
でも、なんで。
黒子くんから花宮さんへと視線を移すと、階段の上にいた花宮さんが一歩ずつ下りてきた。


『ま、待ってください!』

「あ?」

『私…私、花宮さんに言いたいことがあって、それで…できれば、そこで聞いていただけませんか?』


ハッピーエンドじゃなくていい。
でも、ここで言わなきゃいけない気がした。
黒子くんが、高尾くんが、赤司くんが、皆が、私の背中を押してくれていは気がするから。


「…なんで俺がお前の言うことに従わなきゃなんねえんだよ」

『そ、それは…』

「言いたいことがあんなら、ちゃんと目を見て言いやがれ」


私の言うことなんて気にしない花宮さんはスタスタと階段を下りてきた。
あっという間に目の前にやってきた花宮さん。
顔を見れずに俯くと、ため息を吐かれてしまった。


「…顔、あげろ」

『でも…』

「いいからあげろ!」


顎を捕らえられたかと思うと、そのままグイッと上を向かされた。
歪む視界にうつる花宮さんは、ほんの少しあきれたような顔をしていた。


「…なんで泣く?」

『…わかり、っません。でも…花宮さんが近くに居るって思ったら、なんだか…涙が、とまらなくて…』

「はっ!泣くほど俺が嫌いかよ?『違います!』っ!」

『嫌いだなんて、そんなこと…絶対ないです!だって、私はっ…』


私は、あなたが。

とまってしまった言葉。
言いたいのに、その先が喉から出てきてくれない。
その代わりに次々と溢れてくる涙を拭っていると、ふいに両の手を花宮さんに捕まれた。
えっ、と顔をあげたとき。



花宮さんに、キスを、された。



『っ!?!?!?』

「…とまったか」

『えっあっ…なん…で……』

「なんで?…そんなことも分からねえほど、馬鹿なのか?お前は?」


馬鹿です。
馬鹿、だけど……私、自惚れていいんでしょうか。
頬に集まる熱のせいで、多分真っ赤になっている顔で花宮さんを見つめていると、「くくっ茹で蛸かよ」花宮さんがおかしそうに笑った。
そんな彼に更に赤くなった顔を向けて「花宮さん」と呟くと、なんだというように視線を向けられた。


『す、き……です…。私…花宮さんが、好きです』


言った。やっと言えた。
キュッと下唇を噛んで花宮さんの言葉を待つと、どこかあきれたようにため息をつかれて肩が震える。


「…やっぱ馬鹿だな」

『っ』

「わざわざ、言葉で言わなきゃなんねぇのかよ?」


面倒そうに眉を寄せた花宮さん。
でも、その頬がほんの少し赤くなっている。
えっ、という顔で花宮さんを見上げていると、形のいい唇が耳元へ寄せられた。


「好きだ」


たった一言。
この、たった一言が、私にとって、一番の幸せの魔法になる。
夢かもしれないこの幸せから覚めたくなくて思わず花宮さんの飛び付くと、大きな手が頭を撫でてくれた。

夢じゃ、ないんだ。

彼の服の裾を握る手に力を込めたとき。
目の前が、ドンドン暗くなっていった。

prev next