夢小説 完結 | ナノ
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snow white 5


瀬戸さんたちは意外と早く戻ってきた。
未だに怒りをあらわにしている3人は、しっかりと犯人に制裁を与えたらしい。


「花宮は?」

「…あかん。傷の方は大したことなかったんやけど…毒が回っとる」


「毒リンゴの変わりに毒矢なんて、随分なことしてくれるわ」と眉を寄せる今吉さんもまた、どこか怒っているように見える。

花宮さんのいるベッドの隣にある椅子に腰かけて彼を見つめると、白い頬が更に白くなっているのが分かる。それも病的なほどに。


『(わたしの、せいで……)』


私を庇って。
もし、あのとき私が外に出なければ。
ううん、それ以前に、私が花宮さんと出会ってなければ。
力の入っていない花宮さんの右手に自分の手を重ねると、その手はとても冷たくてつい、最悪の事態を考えてしまった。


「探せばこの世界にだって医者くらいいるだろ!?」

「…外見てみい。この雷雨の中、今の状態の花宮を連れていくわかにはいかん」

「じゃあ医者を呼んでくればっ!」

「それも同じだろう。医者を探さしてここまで連れてくるには、時間が足りない。何より、こんな悪天候の中を好き好んで外に出る医者はいないだろう」


今吉さんと瀬戸さんの言っていることは正しい。
正しいと分かっていても、その言葉に恨めしそうに山崎さんは顔を歪めた。


「…雨が止めばまだ希望はある。それまで、ここで待つしかないな」

「っ…クソッ!!!!」


ガンっと山崎さんが壁を殴る。
そこからは誰も口を開かなかった。










7つのベッドが並ぶ部屋。
そこには苦しそうに眠る花宮さんと私の二人だけ。
今吉さんの配慮で、皆はリビングの方へいる。


『(花宮さんっ…)』


浅い呼吸を繰り返す彼の手を握っても、握り返してくれることはない。
溢れる涙を溢しながら花宮さんを見つめていると、思い出したのは彼の言葉。


“自己犠牲精神をやめろって言っただろうが”


そんなの、あなただってそうじゃないんですか。
私のこと庇って、自分を犠牲にして。

この人はたくさんのことを私に教えてくれた。
私に生きる力をくれた。
それなのに…私はこの人に何も返せていない。


『(っ、ごめんなさいっ…ごめんなさい、花宮さんっ)』


痛いのは心臓なのかな。
それとももっと奥の方、心臓じゃない胸の奥。

白すぎる頬に手を伸ばすと、手と同様に悲しい冷たさを感じる。
もし、このまま花宮さんが目を覚まさなかったら。
考えたくないのに、嫌な方向に働く頭が恨めしい。
そんな考えをふりきるように、ギュッと目を瞑ると、頭に浮かんだのは紫原くんが言っていたこと。


“白雪姫って毒リンゴ食べて死んじゃうじゃないの?”


そうだ。
白雪姫は毒リンゴを食べて死んでしまう。
でも、彼女は目を覚ます。
物語では彼女は生き返った。

ゆっくりと目を開けて、もう一度花宮さんを見る。
起きたら怒られたってかまわない。
今は、ただこの人を助けたい。


私に、生きる力をくれたこの人の、側にいたい。


『死なないで下さい、花宮さんっ…!』


花宮さんの右手を握ったまま、ソッと重ねた唇。
1秒か、2秒のそれは、なんだかとても長い時間に思えた。
ゆっくりと体を離して、花宮さんを見るけれど、握った手は冷たいまま。
だめ…なんだろうか、そう思ったとき。


「…人の寝込み襲ってんじゃねぇよ…、ばあか」


悪態にしては優しくて柔らかいそんな声が聞こえた。
ハッとして顔をあげたとき。
最後に見えたのは、花宮さんの笑った顔だった。

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