デビルハンター・グレイ





「大分奥まで来たな……この先に魔王が居るのか」

グレイは、首に掛けられた十字架のペンダントを握りしめた。

「ウル、あんたを殺したデリオラの親玉は、俺が捕らえてみせる」

意志の強い瞳が、まだ見ぬ闇の化身を見据える。
昼間にもかかわらず陽を通さぬ森。そこを探る様に歩み続けたグレイの体力は大分消耗していた。
人間と魔族は互いに境界線を引いている。一歩でも境界を踏み越えれば、互いに命の危険もある。しかし、命を落としたものの数は圧倒的に人間の方が多い。魔族は人間よりも強い力を持っているからだ。
そして、それに憤りを持った者達がデビルハンターと名乗り魔族を退治し始めた。グレイもその一人だ。かつて師であるウルを悪魔デリオラに殺され、その復讐のためにデビルハンターとなり、魔族の長である魔王を打倒そうとしている。
幾多のハンターが魔王の討伐に向かったが、誰一人として帰還した者はいない。グレイは汗がにじむ手のひらを握りしめた。

「クソ、情けねぇ」

身体の震えが武者震いではなく恐怖から来るものだと己でも分かる程だ。グレイはそれを振りきる様に足を踏み出した。
歩みを進め、行く手を阻む様な茂みを一気に駆け抜けた。

「……何だよ、ここ」

最後に突き破った茂みが、まるで暗幕だったかのようだ。先ほどまでの薄暗かったのが嘘だと疑ってしまうような光景が目の前に広がっている。
陽が差し込み緑が輝く。地には美しい花さえも咲き誇っている。

「嘘だろ、いつの間にか戻ってたのか?」

地図などない。もしかしたら奥へと突き進んでいると思っていたのは錯覚で、戻っていたのではないか。しかし、こんなにも美しい場所は見た事がない。
呆然と立ち尽くすグレイ。その視界に、陽に照らされる色鮮やかな色が目に入った。花よりも草木よりも美しく輝く桜色。
黒いローブを纏った少年が陽だまりの中で眠っていた。深めにかぶったフードから覗く桜色の髪と健康的な肌。
グレイは引きつけられるように桜色に歩み寄った。踏みしめる草の音をかき消すように己の胸が酷く高鳴る。
少年の側で屈みこんで顔を覗き込めば、長いまつげが頬に影を作っていた。丸みをおびた頬にグレイの指が触れれば、少年がくすぐったそうに身をよじった。
グレイが生唾を飲んだと同時だ、丸まって寝ていた少年が仰向けに身体を倒す。その拍子にフードがずれ落ち、少年の頭部が全てあらわになった。

「っ、これって」

見開かれるグレイの瞳には、少年の頭部から映えている二本の角が映っていた。角が人間に生えているわけがないし、何より二本の角を持っているのは魔王か、その直系。
思考もままならないグレイの前で少年が身じろぎ、幼い瞳がゆっくりと開かれた。猫の様な吊り目が、寝ぼけ眼でグレイを捕えた。

「お、まえ……だれだ?」

まだ完全に覚醒していないのだろう。舌ったらずの声がグレイの耳を支配する。
少年は上体を起こすと、体をほぐすように伸びをした。

「んー、よく寝た!……で、誰だよ、お前」

きょとんと首をかしげる少年の両肩を、グレイの手が掴んだ。

「あ、お前人間だろ。初めて見る顔だよな。どうやって入って……うわ!」

一人で話し続ける少年をグレイは押し倒した。状況は分かっていないのか瞬きを繰り返す少年。その瞳に吸い込まれる様にグレイは顔を近づける。息がかかるほどの至近距離なのにもかかわらず、少年は理解できていないのか逃げるそぶりも見せない。

「なぁ」

グレイの囁くような声に、ナツがびくりと身体を震わせる。その反応にグレイは口端をつり上げた。

「よく知らねぇ生き物のこと、もっと知りたいって思うのは当然だよな?」

「どういう……ぅん!?」

グレイは少年の言葉を飲み込むように、幼い唇に自分の唇を重ねた。
流石に抵抗を見せる少年だったが、噛みつくような激しい口づけから解放される頃には、瞳をとろんとさせていた。
離れる二人の唇を繋ぐように銀色の糸が伝う。それを切る様に、グレイは音を立てて少年に触れるだけの口づけを落とした。

「お前の事教えろよ」

少年の服の中へと手を入れ、肌を滑らせる。

「あッ!」

胸の突起に手が掠めると、少年の口から甘い声が漏れる。
恥辱に顔を赤く染める少年。それにくすりと笑みを浮かべて、グレイは少年の首筋に顔を埋めた。

「あン……そこ、触んな!」

グレイは、指の腹で胸の飾りを弄ぶ。耳元にかかる少年の荒い息に、グレイは己自信に熱が集まっていくのを感じた。
指先から伝わる少年の滑らかな肌、甘い声。全てが誘っているとしか思えない。
グレイは肌に伝わせながら、ゆっくりと手を下へさげていく。手を阻むベルトを瞬時に取り去り前を寛げると、高ぶりをみせる少年のものをやんわりと手で包んだ。
途端に少年の身体が大きく跳ねる。

「や、やだ!触ん、な……放せよぉ」

ぼろぼろと涙をこぼす少年。それさえも興奮させる材料でしかない。グレイは、少年のものを擦りあげた。

「やァ!!」

悲鳴にも近い少年の声。それに反応したように、空気が震えた。

「五重魔法陣御神楽!!」

「開け、獅子宮の扉ロキ!」

「獅子王の輝き(レグルスインパクト)!!」

「レイジングボルト!!!!」

四つの声のすぐ後衝撃が襲い、グレイは吹っ飛ばされてしまった。少年にはかすりもしないのにグレイの居た場所は土が抉れていた。

「あ?今のって」

少年の瞳に、土煙が舞う中立つ四つの影が映る。次第に視界が晴れていき、その姿があらわになった。
顔に紋章を持つ青い髪の青年。金髪の少女と、その隣に立つサングラスをかけた茶髪の青年。そして、金髪の青年だ。
少年は身体を起こすと、四人を呆然と見つめた。

「何してんだ?ミストガン、ルーシィ、ロキ……ラクサス?」

きょとんと首をかしげる少年の上着の前は肌蹴、ズボンも下げられている。
少年のあられもない姿にミストガンは顔を顰め、ルーシィは泣きそうに顔をくしゃりと歪めるた。

「泣かないで、ルーシィ」

ロキは慰める様にルーシィを抱きしめ、ラクサスはナツへと歩み寄ると己の上着を脱いでナツの頭に被せた。

「うわ!な、なにすんだよ」

「黙って着ろ」

ラクサスはナツから視線をずらし、グレイが吹っ飛んだ方を睨みつけた。茂みで隠れてはいるが付近にいるはずだ。

「人間の分際でこいつに手ぇ出すたぁ、いい度胸じゃねぇか……あァ?」

「ラクサス、ここは私に任せてくれ。人間を裁くのは人間界の時期王である私の役目だ」

ミストガンがラクサスを押しのける様に前へ出る。それに反応してグレイが姿を現せた。

「あんた、ミストガン王子じゃねぇか!何でここにいるんだ!」

ミストガンはグレイに厳しい目を向けた。

「私の事はどうでもいい。それよりもお前の所業、ナツが魔族の王子だと知っての事か」

「ナツ……あいつの名前か」

うっとりと目を細めるグレイに、ミストガンは苦い顔をした。
涙を浮かべていたルーシィが乱暴な足取りでグレイに近づく。すでに先程までの涙は見られない。

「あんたいい加減にしなさいよ!ナツにこんな事してただで済むと思ってんの!?」

「だ、誰だよ、お前」

美少女と形容されるルーシィに睨まれ、その迫力にグレイは一歩足を後退させた。グレイの言葉に答えたのはルーシィではなくロキだった。

「ルーシィは、星霊界の王女だよ」

ロキの言葉がうまく飲み込めないのだろう。瞬きを繰り返すグレイに、ロキが続けた。

「そこで今にも君を殺しそうな顔で立っているのは、妖精界の王子ラクサス。今日は四大界の王の集いだったんだよ。それと共に、次期後継者である王子と王女もね」

人間、星霊、妖精、魔族。四つの種族で成り立つ世界。その長達の集いが、今回は魔族側で行われていたのだ。

「何で、魔族何かと……ッ」

グレイは罵倒しようとしていた口を閉ざした。正しくは、そうせざるを得なかったのだ。
いきなり重くなった空気にナツを除いた面々は額に脂汗を滲ませていた。そんな中ナツだけは、ある方へと笑顔を向けた。

「父ちゃん!」

ナツの父親、つまりは魔王。角がなければ一見優男にも見える外見の男が立っていた。
ただ、今彼の周囲の空気が震えている。息苦しいほどで、耐えられなくなったグレイがその場に膝をついた。

「……ナツは、ラクサス達と向こうへ行ってるんだ。分かったか?」

有無を言わさないイグニールの声に、ナツはのん気に返事をするとラクサス達と共に去っていってしまった。その後しばらくして森には悲鳴が響き渡った。

「魔王って言うか、大魔王よね」

ルーシィの震えた声に、誰も否定は出来なかったのだった。




20100826

トヲル様の日記から妄想を重ねて手酷く仕上がったものでした

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