メタモルフォーゼ
妖精学園小学部には有名な三人がいた。三人共クラスメイトでいつも共にいるのが当り前。ナツ、ラクサス、グレイだ。
「今日はウチでゲームやろーぜ!」
放課後、三人で下校途中。元気いっぱい手を上げたのはナツ。
綺麗な桜色の髪をなびかせる彼は人を引き付けやすい。特に同性が憧れる事が多く年下からは慕われている。
「じゃ、菓子買ってこうぜ。コンビニだな」
ナツに賛同したのはグレイだ。
子供らしくなくませているが、それが女子にはうける様だ。しかし、何故か脱ぎ癖がある。今も無意識だが服を脱ぎ始めていた。
「グレイ、脱ぐなよ」
呆れたようにグレイに視線を向けたのはラクサス。
陽の光に輝く金髪を持つ彼は、学園内でも優秀とされている。学園現理事長であるマカロフの孫である事で有名だ。
そんな三人は幼馴染。だが、下校中だった彼らに出会いが待っていた。
「あ、悪いやつだ!」
ナツが指さす先にはあからさまな不良の姿。気弱そうな生徒を物影へと連れ込んでいく。おそらく恐喝だろう。
ドラマなどで知識のあるナツは、むっと口元を歪めた。
「止めなきゃ」
「ダメだよ、ナツ。オレたちじゃムリだよ」
「相手は高校生なんだ。ムリに決まってんだろ」
無謀にも不良に立ち向かおうとするナツを、ラクサスとグレイが冷静に止める。しかし、それにナツは目を吊り上げた。
「なんだよ!悪いやつほっとくのかよ!」
その時だ。三人に光がさした。
「オイラが力を貸してあげるよ」
三人が顔を上げれば、翼を生やした青い猫が宙に浮いていた。
猫は三人の視線の高さまで降りてくると、ナツを見つめ、にゃーと可愛らしく鳴いた。
「ネコだ」
「ネコは喋らないよ。ナツ」
「ドラ○もんじゃねぇか?」
グレイが真面目な顔で言い放つ。
猫は地に降りると、翼をしまった。
「あい。オイラはハッピーだよ。実はかくかくしかじか……」
猫ハッピーの説明を三人は聞き入った。どれほど優秀だったり、ませていても、所詮は小学生なのだ。
ハッピーは、エクスタリアという世界の住人で、そのエクスタリアが力を失いかけているらしいのだ。人の善の心で力を保っていた世界エクスタリア、それは人間の中で善が消えていっている証拠なのだ。
ハッピーはエクスタリアを救うために善の心を集める戦士を探していた。そこで、ナツ達に白羽の矢が立ったという事だ。
ハッピーの作戦は、手始めに妖精学園高等部の不良をまとめあげる番長になること。高等部の制圧だ。
「よく分かんねーけど、オレやるぞ!」
「ナツがやるならオレもやるけど……じーじが心配しないかなぁ」
「オレはやってもいいぜ」
話しは早い。ハッピーはナツ達に携帯電話の様なものを差しだした。
「これはフェアリーフォンだよ。このボタンを押して、メタモルフォーゼって叫ぶんだ!」
ナツ達は、携帯電話に向かって声をそろえた。
「メタモルフォーゼ!!!」
三人を光が包み、そして光が消えた時そこに居たのは、高校生程に成長したナツとグレイとラクサス。
フェアリーフォンを使うと、未来の姿へと変身することが出来るのだ。体力はもちろん知識も年相応になっている。
「おお!でかくなってる!」
「おい、お前ナツか!?」
ナツとグレイは、自分たちが高校生ほどに成長している事にはしゃいでいる。
服は、ハッピーが事前に確認した妖精学園高等部の制服だ。
「すげぇな、ハッピー!」
「あい!これでそこらの不良なんか目じゃないね!」
しかし一名おとなしい者がいた。ラクサスだ。
はしゃぐ二人と一匹に、ラクサスは前髪をかき上げると舌打ちを漏らした。
「くだんね」
その態度にグレイとハッピーが硬直した。
「おい、何か一人おかしいのがいねぇか」
「成長過程でなにかあったんじゃないかな……あい」
酷いぐれようである。
しかしナツだけは変わらずに、己よりも背の高くなったラクサスを楽しそうに見上げている。
「お前の方がでかいんだなー」
姿が成長しても純粋な瞳。
輝く瞳で見つめられ、ラクサスは笑みを浮かべた。手をナツの顎にかけると至近距離まで顔を近づける。
「俺が色々教えてやろうか?」
ナツはきょとんとしている。その二人の間にグレイが割って入った。
「てめぇ!ナツに何してやがる!」
「あァ?今からすんだよ」
「させるか!!」
グレイとラクサスが言い争いを続ける中、恐喝を終えた不良がどこかへと行ってしまった。
ハッピーはその背中を見つめながら、ため息をついたのだった。
「人選ミスだったかな?」
20100810