3comboの翌日(三人とも元に戻らなかった場合)
昨日の魔法薬混入事件で異変を伴った三名、ナツ、ラクサス、グレイ。ナツは女性となり、ラクサスは数年分若返り、グレイは本音しか言えなくなってしまった。グレイの場合は本音というよりも、ナツに対して隠していた恋情が隠せなくなってしまっただけだが。
「……戻らねぇ」
ギルドに来ていたナツはテーブルに突っ伏した。
女性の体で不便を感じる事はたいしてないように感じていたのは昨日までだ。しかし一日を過ごしてしまえば男の身体が恋しくて仕方がない。
「くそ!戻れよ、身体ー!!」
天に向かって吠えた反動で豊かな胸が揺れた。服はミラジェーンやルーシィに準備してもらって事なきを得たが、やはり慣れない。
男の時よりも筋力は落ち背も低くなった。大きな胸のせいで重くて動きづらい。戦いとなれば不利になるだろう。
いつでも暴れているナツにとっては邪魔でしかなかった。
「何騒いでんだ」
「ラクサス」
呆れたような声に振り返れば、実年齢よりも若返ったラクサスの姿。
「お前だって早く元に戻りてぇだろ」
不満そうに口を尖らせる姿は愛らしい。ラクサスは咄嗟に顔をそらせた。
「……俺は、実感がねぇからな」
ラクサスの記憶は当時で止まっている。五、六年ほどの記憶がないのだそうだ。ラクサスにしてみればタイムスリップしたような感覚だろう。
ナツは、ふーんと適当な相槌を打ちながら、隣に座ったラクサスを見つめる。観察されるようなその視線にラクサスは顔をしかめた。
「何だ」
じろじろとラクサスの顔を眺めて、ナツは笑みを浮かべた。
「お前、かっこいいな」
「な!……に、言ってんだ、てめぇは」
動揺を隠し切れていない。
ラクサスが、迫るように顔を寄せてくるナツから視線をそらした瞬間、ナツとラクサスの顔の間を何かが通った。
その先へと視線をずらせば、壁に矢が突き刺さっている。
「てめぇ、ナツに何してやがる」
低く唸る様な声に振り返れば、グレイが氷で造形した弓を構えていた。矢はグレイが放ったものだろう。
グレイの姿を確認した途端ナツが嫌そうに顔をゆがめた。昨日のトラウマは健在のようだ。
「ナツ、こっちに来いよ。そいつに触ると孕まされんぞ」
「てめぇと一緒にすんじゃねぇ」
グレイの発言にラクサスが顔を顰める。
ナツはきょとんと首をかしげた。
「はら……?何だ、ラクサス。腹減ってんのか?」
説明したくもない。
ラクサスが無視していると、グレイが近づいてナツの腕を掴んだ。
「こんなやつ放っといて向こう行こうぜ、ナツ。俺が色々教えてやるからよ」
「色々ってなんだよ。つか、触んな!」
無理やり連れて行こうとし始める姿は、性質の悪い軟派だ。
弱まったナツの力ではグレイに対抗できないのだろう、抵抗するものの逃れられない。
「いいかげん……ぶふ!」
グレイから逃れようとしていたナツは、顔面の衝撃と、包まれるよう感覚に瞬きを繰り返した。抱きしめられている事は分かる。グレイにはまだ手を掴まれているから、相手がグレイではない事も分かる。
そっと顔を上げれば、ラクサスの顔が間近にあった。
「何しやがる」
顔をゆがめるグレイに、ラクサスは、ナツの手を掴んでいるグレイの手を引き離した。
「見苦しいんだよ、てめぇは」
「てめぇには関係ねぇだろ!ナツから離れろ!」
そう言われて放すわけがない。グレイがナツに迫る事は分かっているからだ。
どうグレイを排除するか考えていると、腕の中にいるナツがしがみ付く様にラクサスの服を掴んだ。
ラクサスがそれに気が付いて視線を下げれば、頬を紅色させるナツがいる。
「ラクサス、俺……」
ナツの潤んだ瞳に見つめられ、ラクサスは口元を隠すように手で覆った。顔をそらしても、赤くなっている事は隠せない。
そんな光景にグレイが黙っているわけがない。冷気を周囲にまき散らしながら、魔法を使う構えをとった。
かくしてラクサスとグレイの戦いが始まった。
「ナツも大分女の子らしくなってきたわね」
ナツ達の様子を見ていたミラジェーンが楽しそうに笑みを浮かべる。
共にいたルーシィは、脱力したように溜め息をついたのだった。
20100731