カルピス





「父ちゃん!」

真夏の日差しの下で遊んでいたナツが慌ただしく帰ってきた。
冷房で程良く涼しい室内。くつろいでいたイグニールはナツの声に振り返ると手にしていた本を閉じて、飛び込んでくるナツを抱きとめる。

「おかえり」

「ただいまー!」

活発に遊んできたのだろう。肌は汗ばみ、軽く日にも焼けたようだ。元気なのは良いが、その分水分は失われているだろう。
イグニールは立ち上がると冷蔵庫へと向かった。

「喉かわいたろ。何が飲みたい?」

麦茶。カルピス。オレンジジュース。
冷蔵庫を開けて一つ一つ述べていくと、ナツも冷蔵庫の中へと顔を覗き込んだ。
冷気を顔に感じながらイグニールを見上げる。

「父ちゃんは?」

「うーん、父ちゃんは……カルピスだな」

「じゃぁ、オレもカルピス」

そうくると思った。
ナツが聞いてきたという事は、己が言ったものと同じにするだろうとイグニールには予測できた。だから最近のナツのお気に入りであるカルピスを選んだのだ。

「よし。父ちゃんがうまいカルピス作ってやるからな」

「おー!」

冷蔵庫の中から、紙パックに入ったカルピスの原液とペットボトルの天然水を取り出す。棚からグラスを二人分取り出している間に、ナツは冷凍庫から氷の入ったケースを引っ張り出していた。

「父ちゃん、氷!」

ケースの中で氷同士がぶつかり合って音を立てる。
テーブルの上にコップを置いたイグニールに、ナツが氷のケースを差し出した。

「ありがとな。ナツ」

イグニールが氷を受けとると、ナツはテーブルの上を覗き込む。
イグニールの手がグラスにカルピスの原液と水を注いでいく。少し濃い目につくられたカルピス。そこに、氷が数個落とされた。
氷が立てる音。それを聞いているだけで涼しくなってくる。

「父ちゃん特製のカルピスができたぞー」

カルピスが波打つグラスを両手にイグニールが足を進める。先ほどまでくつろいでいたリビングに着くと、嬉しそうに追いかけてきたナツへグラスを一つ差し出した。

「ありがと。父ちゃん」

「零さないようにな」

ナツは元気良く頷いてグラスに口を付けた。
よほど喉が渇いていたのだろう。カルピスは音を立てながらグラスの半分ほどまでなくなってしまった。

「うめー!」

グラスから口を離して、満面の笑み。それに笑みを浮かべながらイグニールはクッションの上に腰を下ろした。
カルピスを口に含めば、甘さと、ほんの微かに感じる酸味が口に広がる。その間に、ナツの手にしていたグラスは氷だけとなっていた。
イグニールは、ナツが強請る言葉を口にする前に再度立ち上がったのだった。もちろんその足は冷蔵庫へと向かって。




2100727

※飲料カルピスが発売開始したのは7月7日(ウィッキー調べ)

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