ベタな展開





まるで少女漫画の様な出会い。
その日は寝坊して、朝食も取らずに学校まで全力疾走。
幸いな事に家から学校までは大した距離ではない。そして最後の曲がり角。そこを曲がれば学校が見えてくるはずだったのに、予想外の衝撃。
気付いた時には尻もちをついていた。

「っくそ……どこ見て歩いてんだよ!」

睨みつけたその先には、陽の光に反射する綺麗な金髪の、男――――

「つーことがあったんだよ!」

グレイは机に拳を叩きつけた。
今まさに、友人であるルーシィとナツに数十分前の出来事を話していたのだ。苛立たしげな声は友人だけではなく教室中に届き、笑いをこらえている者までいた。

「トーストくわえてなくて良かったぜ」

自分で言ったくせに顔を顰めるグレイに、ルーシィは揶揄するように笑みを浮かべる。

「これで、その人が転入生としてこのクラスに来たら運命よね」

「やめろよ。相手は野郎だぞ」

苦々しく歪められた顔は本気で嫌そうなのだが、それが更に笑いを誘う。

「なぁ、何がおもしろいんだ?」

今まで大人しく話を聞いていたナツがきょとんと首をかしげた。

「ナツ知らないの?少女漫画的ベタな展開なのに」

「少女漫画って女が読むんだろ?」

「古いわね、あんた。今時男だって少女漫画ぐらい読むわよ」

ふーんと、ナツが興味なさそうに相槌を打つと同時に教室の扉が開いた。
担任であるマカオが出席簿片手に入ってくる。その後ろからは見覚えのない顔。金髪の少年だ。
状況からして転入生だろう。他の生徒たちも興味深げに騒いでいる。

「噂をすればってやつじゃない?グレイ、今朝ぶつかったのって……」

にやにや笑みを浮かべるルーシィ。グレイがガタリと音を立てて立ち上がった。

「てめぇ!今朝ぶつかった野郎じゃねーか!」

「本当にそうなの!?」

教室中に響く怒鳴り声に金髪の少年は眉を寄せた。
担任のマカオがグレイと少年を交互に見て、少年で止めた。

「知り合いか?」

少年は視界さえも入れたくないように瞳を閉じてしまった。
無視された事に更に苛立ちが増し、足を踏み出そうとしたグレイだったが、その前に後ろの席のナツが静かに立ち上がった。

「ナツ?」

グレイが訝しげに振り返れば、グレイの呼んだ名に反応したように少年は閉じていた瞳を開いて視線を向けた。
少年と視線が交わると、ナツの口がゆっくりと開く。

「ラクサス」

少年は、信じられないとばかりに目を見開いた。

「ナツ?」

まるで囚われているかのように、二人は見つめあう。ナツと、ラクサスと呼ばれる少年は明らかに初対面とは言えぬ雰囲気を出していた。

面白くなさそうに顔をゆがめるグレイに、ルーシィは小さく息をついた。

「これも運命の人って言うのかしら」

グレイがナツに好意を寄せていた事を知っているルーシィには何とも言えない展開だった。まさか、運命的に出会った相手が、恋の相手ではなく恋敵だなんて。
マカオが教室を出ていってすぐナツに問いただせば、あっさりと説明が返ってきた。
小学生低学年の時に今いる街へと越してきたナツ。ラクサスは、越してくる前に住んでいた家の隣人でクラスメイト。いつも一緒に遊んでいた一番の友人だったらしいのだ。

「じゃぁ、また一緒に遊べるな!」

嬉しそうに笑みを浮かべるナツに、ラクサスは眩しそうに目を細める。
ルーシィは複雑だった。何せ席が、ルーシィの隣はグレイ。そして、グレイの後ろはナツなのだが、その隣がラクサスだった。知り合いという事でマカオが気を利かせたのだが何とも余計なお世話である。
後ろで楽しそうに会話をくり広げるナツとラクサスに、グレイの怒りが限界を迎えていた。

「グレイ、殴りかかったりしないでよ?」

恐る恐る声をかけてみるが反応がない。
ルーシィが再度名を呼ぼうとしたが、その前にグレイは後ろへと振り返った。鋭い視線はラクサスへと向いている。

「昔のダチだか知らねーが、調子乗ってんじゃねぇぞ」

「あァ?」

一触即発とはまさにこの事だ。空気が痛い。
ルーシィが内心悲鳴を上げていると、ナツが気が付いたように、あ、と声を漏らした。

「まだ紹介してなかったよな。ラクサス」

名を呼ばれれば、先ほどまでの鋭かった瞳が嘘のように優しくなり、ナツへと向けられる。
ナツは無邪気な笑顔でグレイの首に腕をかけ、引き寄せた。

「こいつ、グレイな!この街に来てからは、ずっと一緒なんだぜ」

急接近したナツの顔にグレイは一瞬で顔を赤らめる。グレイから発せられる痛いほどの空気は一気に消え失せてしまった。
ナツはグレイを解放すると、ルーシィへと視線を向ける。

「そいつはルーシィ。すげぇ良いやつなんだ」

名を出されれば振り向かざるをないだろう。ルーシィはぎこちなく振り返ると、小さく手を振った。

「よ、よろしく」

正直だ、手だけでなく声までも震えている。
しかし、ラクサスの興味はすぐに失せ、視線はルーシィからグレイへと移った。グレイはいまだに顔を赤らめたままでナツを直視できていない。その様子にラクサスは眉を寄せると、へぇと、小さく声を漏らした。目が怖い。

「お、終わった、私の学園ライフ……!」

ルーシィは涙を浮かべながら、机にへばりついたのだった。
どうなる三角関係。




20100726

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