まだ見ぬ彼らへ





世界は魔力で満ちており、自然から力を与えられ人の思いに応えて魔法が生み出される。
そして、魔の道を進む者たちは全て一つで繋がっているのだ。

一年の中で何よりも忘れることのできない、七月七日。
暦が替わって間もなく、ナツは家を抜け出した。まだ幼く熟睡しているハッピーを置いて、静まりかえった町に一人足を踏み入れる。
目的場所があるわけではない、ただ毎年この日になるとナツは探すように彷徨うのだ。毎年恒例の儀式にも似た行動。

「ここはちげーな」

路地裏を覗きこんだナツは、似つかわしくない難しい表情で首をかしげた。
すぐに興味を失い、その場から離れて再び町をねり歩く。丘へと上がり周囲を見渡すが、ナツが求めるものはなかった。

「去年は森だったんだよな」

呻りながら歩いていた足が、行き止まりで止められる。
ナツの目の前に広がっているのは湖で、昼間とは違う闇のような水面は街灯を反射していた。
ナツは、水際まで近寄るとその場にしゃがみ込んだ。風で波打つ水面に手のひらをあてると、頬を緩める。

「みつけた」

手のひらに意識を集めるように、目を閉じる。

「へへっ、あったけー」

水面が揺れるたびに、まるで、この場には居ない誰かと手を合わせている様な感覚になる。そして、この時期には心地良く冷たいはずの水温が、体温のように暖かく感じた。
ナツは、毎年この感覚を味わう為に町を彷徨うのだ。
イグニールが姿を消し、妖精の尻尾へと身を置いてから毎年のように繰り返す。いつもなら何もない場所が、その日だけは約束したかのような感覚が訪れるのだ。
呼ばれているような、己が呼んでいるような。離れてしまった縁をたぐり寄せているような。

「あ、終わっちまった」

ふと、感覚が途切れる。それは毎年同じことで、ナツは残念そうに、水面にあてていた手を放した。
手を濡らしている水滴は、体温とは程遠いほどの温度しか持っていない。それに、口を尖らせながらも表情は満足そうに、ナツは駆け足で家へと戻っていった。


同時刻、魔導士ギルド化猫の宿。

「つめたくなっちゃった……」

湖に手を泳がせる少女の瞳は次第に涙がたまっていく。
少女がぐすりと鼻を鳴らしていると、背後から影が近づいた。

「ウェンディ、こんな所におったのか」

安堵を含んだ声に、少女ウェンディはゆっくりと振り返った。

「マスター」

背後に立っていたのは、ギルドマスターであるローバウル。
ウェンディは湖から手を離して、ローバウルに駆け寄った。その手は濡れており、ローバウルは手ぬぐいを取り出すと、ウェンディの幼い手をとって手の水滴をぬぐいとってやる。

「もう時間も遅い。寝なさい」

「はい!」

ウェンディははにかみながら、乾いた手を握りしめて家の中へと入っていく。

そして、ナツとウェンディと同様に湖に手をあてていた者がいた。ただ一人森の中で、月明かりに照らされながら身体を木にもたれかかる。
湖から離された手は、時間の経過ですでに乾いてしまっている。それでも、手には温度が残っている様な気がして、少年の口元に自然と笑みを浮かべさせていた。

出会いを果たす数年前




20110707

幼少期の滅竜三兄弟


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