教科書ラブレターG





会いたくない時にかぎって相手の方から足を運んでくるもので、一時間程前に別れたばかりのグレイが再びナツの教室に訪れていた。

「なんか用かよ」

教科書に書いてしまった文字がばれたのかとナツはグレイを直視できていない。
視線をさ迷わせるナツに、グレイは訝しむ様に顔をしかめた。

「数学の教科書忘れたんだよ。貸してくれ」

グレイがナツに借りに来るなど今までなかった。
ナツはにやりと笑みを浮かべた。

「お前が忘れもんとか笑えんな!」

げらげらと隠すようすもなく声をあげて笑うナツにグレイは口元を引きつらせた。

「毎度忘れるやつに言われたくねぇな」

ナツはぴたりと笑いを止めると目をそらす。

「仕方ねぇから貸してやる」

ナツは机の中から教科書を引っ張り出すとグレイへと差し出した。

「落書きすんなよな」

「お前、今まで自分がした事忘れたのかよ……」

ナツに貸した事のある教科書は全て落書き済みだ。
グレイの様子から教科書に書いてしまた文字がばれていないと感じ、普段通りの態度でいられた事に安堵していたナツだった。



授業が終わってすぐにグレイが教科書片手にナツの元へと訪れた。

「助かった」

「おう。また忘れたら借してやるよ」

「お前と一緒にすんなって。じゃあな」

グレイは逃げるように出ていってしまった。
グレイの背を見送っていたナツに、グレイと同じクラスのルーシィが通りがかりに近づいた。

「ナツ、どうしたの?そんなとこで突っ立って」

「いあ。グレイに教科書返してもらっただけだ」

教科書を持っていた手をあげると、ルーシィは困惑したように眉をよせた。

「それ、いつ貸したのよ」

「さっき。終わったからってすぐに返しに来たぞ」

ナツの言葉にルーシィは考えるように少し間をおいて口を開いた。

「ていうか、今日数学ないんだけど」

今度はナツが困惑する番だった。ルーシィが無意味に嘘をつく言葉どない。そうなれば、グレイは何故教科書を借りに来たのか。
ルーシィが去っていった後、ナツは慌てて教科書を開いた。
グレイが嘘をついてまで教科書を借りに来た理由など、落書きしかない。そう思い教科書の中身を確認するが、目立ったものは見られなかった。

「グレイのやつ、何がしたかったんだよ……あ。」

乱暴に教科書を捲っていると、弾みで教科書が床に落ちてしまった。
慌てて拾おうとしたナツの手が止まる。
まるでわざとクセを付けたかのように、教科書は表紙を床に付けて綺麗に開いていた。
教科書を拾い上げたナツは目に入ってくるページの隅まで目を走らせる。

「……あ」

印刷された文字とはあきらかに違う字に目が止まった。自分のものとは違うが見慣れた字。
文字を脳内で何度も繰り返し目を通したナツは、意味を理解して顔を赤く染めた。
隠すように教科書を閉じ、暫くして再び開く。
教科書の端には小さな二文字。

『俺も』




20101218

珍しくピュアグレナツ


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