留学生編「留学生は王子さま」
ナツが二年へと進級し、ラクサス達が教師として任じられた。それと同時にやってきた、新たな教頭と二人の留学生が、学園生活に騒動を巻き起こす事になる。
昼休み、学生や教師が共に利用する食堂。よく共に食事をする、ナツとルーシィとラクサスの三名に加わって、新しい顔が同席していた。
そのテーブルに周囲の視線が異様なほどに集まっているのは仕方がないだろう、新顔は、噂の的となっている留学生と帰国子女なのだから。
「それじゃ、本物の王子様なわけ!?」
ルーシィの驚愕の声に、同席していた長髪の少女が頷いた。
「彼は、エドラス王国第二子ミストガン王子です」
少女の隣に座っているのは、ルーシィが興味深く見つめる話題に上った少年。青髪に、右目には紋章が刻まれている。その紋章は、エドラス王国の王家のみが身体に刻んでいるものだ。
その隣に座っていたナツが、嬉しそうに笑みをこぼしながら、少女へと顔を向ける。
「会うのすげぇ久しぶりだよな、ウェンディ」
少女ウェンディも、嬉しそうに笑みをこぼす。
「はい!ナツさんが元気そうでよかったです!」
「ウェンディもな!」
ミストガンを挟んで和やかな空気が流れる。
ミストガンは社会勉強の一環としての留学生で、ウェンディは帰国子女である。ウェンディの年齢は中学に上がった辺りなのだが、外国ですでに高等課程を修了しているのだ。
「ナツとウェンディは知り合いなの?」
「おお。小せぇ時父ちゃんの仕事について行ったことあったろ、その時友だちになったんだよ」
ナツの父親であるイグニールは、海外出張の多い仕事についている。ナツは一度だけ、学校の長期休暇を利用して、イグニールと共に海外に行ったのだ。
納得していたルーシィに、ウェンディが口を開く。
「ナツさん、ミストガンはナツさんに会うのを楽しみにしてたんですよ」
「俺?」
首をかしげるナツに、ミストガンが柔らかく笑みを浮かべた。
それを目撃してしまった周囲から黄色い悲鳴が上がり、ルーシィの頬も微かに紅潮している。
「イグニールさんがナツさんの話しをいっぱいするから、ずっと気になってたんだよね?」
ウェンディの言葉に頷いて、ミストガンはナツへと手を伸ばすと、口元についていた食べかすを指で拭った。
「私は、君に会うために来たんだ」
きょとんとするナツとは全く逆の、重い空気がルーシィの隣から流れる。共に食事をしていたラクサスだ。
ルーシィは顔を引きつらせながら、視線をそのままに口を開く。
「こ、怖いんだけど……」
「あァ?」
地を這う様な声にルーシィは身体を硬直させた。その目の前では、苛立つラクサスに気付いていないナツ達がやり取りを続けている。
「お前、父ちゃんの知り合いなのか」
「君の父上には世話になった。君の話しも、色々聞かせてもらった」
「父ちゃん、どんな話したんだ?」
「君が、どれほど心優しく可愛いかと」
ナツの顔が訝しむ様に顰められる。しかし、その口から不快を表す言葉は吐きだされることはなかった。ミストガンから悪意を感じないのもあるだろう。
「ていうか、イグニールって何の仕事してるのかしら」
やり取りを眺めていたルーシィが、首をひねる。
王子と知り合えるなど、ただの会社員ではない。しかし、どれだけ思考を巡らせても答えが出るわけもなく、ルーシィは早々に思考を切り上げた。正しくは、思案に沈んでいる余裕はなかったのだ。
ラクサスの機嫌は更に急降下し、纏う空気は不穏なものになっていたのだった。
20110807