last summer






夏休みに入ってすぐ、部活の合宿で天狼島へと訪れた。妖精学園のあるマグノリアから近くの町ハルジオン、そこから船で移動してすぐの場所だ。

「つーか、何で俺まで来てんだ?」

天狼島へと足を踏み入れたナツは、呆然と島を眺めながら呟いた。
ナツは部活には所属していない。今回の合宿は弓道部の行事であり、ナツには無関係だ。

「なに言ってんだよ。お前は俺のマネージャーだろ」

肩に回された手と、耳元で囁かれる声。ナツは、鬱陶しそうに体を密着させる人物を見やった。

「離れろよ、グレイ」

グレイはナツのクラスメイトであり、弓道部のエースだ。何をとち狂ったのか同性であるナツに好意を寄せ、常に迫っている。
ナツは友人としてグレイに好感を持っているが、それ以上の感情はない。
他の弓道部員は、この光景に慣れたもので船から降りた順に宿泊施設へと向かっている。ナツはグレイの頬に掌をあてて、ぐいぐい押しやる。

「いい加減にしろ!」

帰宅部のはずのナツは、グレイの手によって勝手に弓道部のマネージャーにされてしまったのだ。
目を吊り上げるナツに、グレイはナツから手を放し、緩んでいた表情を更に緩めた。ここまで来ると罵倒しようが無意味だとナツは学習している。

「は、早く寝てぇ」

合宿初日であり、まだ現地にたどり着いたばかりだというのに、ナツの疲労は半端なかった。
がくりとうなだれるナツに、グレイは頬を紅潮させながら視線をさ迷わせる。

「焦るなって、俺たち部屋は一緒なんだからよ」

ナツはびくりと体を震わせてグレイを見上げた。

「……一緒の部屋?」

「ああ。練習の後でも、ちゃんと満足させてやんよ」

何をだ。
突っ込みを飲み込み、顔を青ざめさせたナツは、思っていた以上に己が危機的立場にいるのだと漸く自覚した。
滲む冷や汗を感じながら、ナツは逃げ道を必死に頭の中で探る。帰りたくとも、海の方へ目を向ければ船は港へと戻ってしまっていた。
天狼島とハルジオンを行き来する船は、決まった時間帯にしか来ない。それも、一日一本という少なさ。もう今日来ることはない。

「ほら、行こうぜ」

グレイに手を掴まれ、引きずられる様にして歩きはじめる。
森の中央部分まで歩いたところで、宿泊施設が姿を現せた。中に入ろうと足を進めたナツ達は、施設から出てきた一人の少年とはち合わせた。
同い年ほどの金髪の少年は、ナツと目が合うとその目を大きく見開いた。

「ナツ?」

名を呼ばれて、ナツはきょとんと少年を見上げる。
少年は弓道部の人間ではない。顔は整いながらも右目に傷がある。逆にそれが引き立っている様にも見えるのだが、傷を見たナツの脳裏を何かが過った。
言葉にする程でもない、小さな記憶が微かによぎる。思い出せず顔を顰めるナツに、少年は苦笑した。

「思い出せねぇか?ガキの頃は、毎年夏休みになるとここに来たろ」

訝しんでいたナツの表情がぱっと笑みに変わる。

「ラクサス……そうだ、ラクサスだ!」

「やっと思い出したか」

少年ラクサスが嬉しそうに目を細め、それにナツは顔を赤らめて俯く。
視線を絡めるだけの沈黙が落ちるが、それはグレイによって終わらせられた。

「どちらさんか知らねぇが、人の恋人にちょっかい出すんじゃねぇよ」

「誰が恋人だ!」

目を吊り上げるナツの言葉に返事もなくグレイはラクサスを睨みつける。
ラクサスは、グレイとナツの繋がれている手を見て、眉を寄せた。

「ずいぶん仲がいいんだな」

ラクサスの視線を辿ったナツは、慌ててグレイの手を振りほどく。

「ち、違ぇんだ!グレイとはそういうんじゃなくて……」

必死に否定するナツの言葉など二人の耳には入っておらず、ラクサスとグレイは火花を散らしていたのだった。



次号以降の内容!
天狼島は妖精学園の所有物であり、ラクサスはその学園長マカロフの孫だった。
ナツの父親とマカロフが旧知だった為に、ナツは幼い頃夏休みを利用して天狼島に遊びに来ていたのだ。
そこでナツとラクサスは知り合い、仲が良くなった。しかし、ラクサスはマカロフの孫であることに劣等感を持つようになり、妖精学園に入学する事はなく、そのままナツとは距離が出来て、合宿でナツが訪れるまで再会する事はなかったのだ。
互いに惹かれあっていたラクサスとナツは、再会したことで潜んでいた恋心に火がついた。
想い合っているのに踏み出せない二人に、グレイが割りこみ、二人きりの時間さえも得られない状況に。
そんな中、夜中に部屋を抜け出したナツは、ラクサスの部屋に訪れた。

「少し話ししてぇんだけど……入っていいか?」

ちらちらと見上げてくるナツに、ラクサスの鼓動は高鳴るばかり。部屋に招き入れたものの、ナツはベッドに腰を下ろした。
好意を寄せる相手が夜中訪れてきて、ベッドに座る。こんな状況男の子だもんギリッギリだよね、忍耐力フルで働かせて頑張るラクサス。
そんな中、ナツは似つかわしくない程に小さな声で言葉を紡いでいく。

「あのさ、俺、ガキの頃からお前のこと……」

震えるナツの唇が刻む言葉とは。その頃、ナツがいない事に気付いたグレイは、ある行動に出る。
ラクサスとナツの恋はうまくいくのか!待て、次号以降!




20110901

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