あらすじ
一年前に両親と死別したグレイ。親戚だった女性ウルに引き取られたのだが、一年後の現在、ほんの一月前に事故死してしまった。
より所をなくし心を閉ざしてしまったグレイは、養護施設へと預けられることが決まっていたのだが、そこで突然訪れたウルの恩師に当たるマカロフがグレイを養子として迎え入れることにした。
ドレアー家に訪れて暫くは、部屋にこもっていたグレイだったが、心を開くきっかけとなる人物と出会う事になる。それは、マカロフの孫であり、家人の一人であるラクサスの幼馴染、ナツ。
明るく、天真爛漫を表した様なナツに、グレイは恋に落ちた。
the恋敵
平日の、夕方に迫った時間。ドレアー家の廊下を、ランドセルを背負ったグレイが慌ただしく駆け抜ける。
「ナツ!」
ノックもなしにラクサスの自室の扉を開いたグレイは、ベッドに寄りかかって座っているナツを見つけ、表情を輝かせた。
「おー、おかえり、グレイ」
にっと浮かべるナツの笑顔に、グレイの鼓動は高鳴る。
胸に手をあてたまま石化したように固まってしまったグレイに首をかしげたナツだったが、その背後に立った人物に、あ、と声をもらした。
グレイが振り返ろうとするが遅い、真上から振り下ろされた拳がグレイの頭に直撃した。
「いっ……!」
容赦ない攻撃は、頭部に大きな痛手を与えた。
頭を押さえながら、その場にうずくまったグレイは、横を通り過ぎた人影に顔を上げる。
「なにしやがる……」
グレイの頭を殴ったのは、飲み物をとりに行っていたラクサス。
ラクサスは持っていたジュースの一つをナツへと渡し、腰を下ろした。涙目で睨みつけてくるグレイに眉を寄せる。
「勝手に入るんじゃねぇよ、クソガキ」
「ガキじゃねーよ!てめーこそ、ナツになにする気だ!」
ジュースを飲んでいたナツは、己の名が出されて目を瞬かせる。
「ラクサス、俺に何かするのか?」
上目づかいで見つめてくるナツに、ラクサスは気まり悪げに目をそらした。
「するわけねぇだろ」
「……なんだ」
小さく呟いたナツの口は、つまらなそうに尖らせていた。それを視界に入れたラクサスは目を細め、床に置かれていたナツの手に己の手を重ねる。
「何か、されたかったのかよ」
頬を紅潮させるナツ。二人からは甘い雰囲気が醸し出され、それを間近で見ていたグレイは体を震わせて、ラクサスに飛びかかった。
「させるかー!!」
「まだ居やがったか」
掴みかかってくるグレイの手が、ラクサスの服や髪を引っ張る。痛みに顔を顰めるラクサスの手がグレイの顔面を鷲づかみにする。
「邪魔だ、さっさと出ていけ」
一瞬動きが止まったグレイだが、すぐに反撃し、喧嘩になった。
二人のやり取りを暫く眺めていたナツは、ラクサスが本気で怒りを見せる前にと、止めに入った。
「やめとけよ、ラクサス。グレイは子供だろ」
ナツの声に動きを止めた二人は、ナツへと振り返る。
「子供あつかいするな!」
「子供だろうが変態は別なんだよ」
「変態はてめーだろ、ナツを妙な目で見やがって!」
「それはてめぇだ、エロガキ!」
小学生と高校生、悪い意味で年の差を感じない口喧嘩になっていく。止まりそうにないそれは、当人ではないナツの目には、本当の兄弟のように見えた。
ナツに兄弟はおらず、父親との二人暮らし。片親の分寂しさも味わってきた。だから、今のラクサスが羨ましく思えるのだ。
「俺も弟欲しいな」
寂しげに落ちたナツの声に、グレイとラクサスの意識を向けた。二人の視線に、ナツは笑みを浮かべる。
「俺も、じっちゃんの孫になろうかな」
ナツには珍しい不器用な笑顔。困ったように眉を落とす、その表情にラクサスは眉をひそめた。幼馴染であるラクサスは幼い頃からナツが一人で家に過ごしていたことが多かった事を知っているのだ。
声をかけようとラクサスが口を開くが、声を発する前に、ラクサスから離れたグレイが両手でナツの手を掴んだ。
「オレがナツをおよめさんにしてやるから、それまで……ぅぐ」
グレイの頭に、ラクサスは肘を置いて体重をかける。体勢が沈むグレイを無視してラクサスはナツへと目を向けた。
「ジジィは喜ぶだろうが……そんな事になってみろ、お前の親父が殴りこみに来るぞ」
先ほどのナツの言葉を、ラクサスは真面目に返してきた。ナツ自身本気で言ったわけではないが、ラクサスが口にした光景はナツの脳内に簡単に描かれた。
「あー……この家無くなるな」
ナツの父親の親バカぶりは、息子も認める程だった。
それに。ラクサスが口を開く。
「俺と兄弟でいいのかよ」
続けられたラクサスの言葉。真っすぐに見つめる瞳に、ナツは恥ずかしげにはにかんだ笑みを浮かべる。
「へへっ、兄弟じゃ嫌だな」
望んでいるのは別の関係だから。
20110830
ナツが年上になるとドラグニル家的なノリになる。
ラク→←ナツ←グレ。幼馴染設定と子供の片想いは外せない。