2日目「幼馴染と入学式」
入学式当日、車で妖精学園と向かっていたナツは、門前に立つ見知った顔を見つけ、車から飛び出した。
「グレイ!」
グレイは小学校時からの所謂幼馴染というやつで、ナツ同様に妖精学校に入学したのだ。もちろん、男子生徒として。
「ナ……ツ?」
名を呼ばれて振り返ったグレイは、駆け寄ってくるナツに目を見張った。
グレイは共に入学の決まったナツを待っていたのだが、ナツの格好がおかしい。
「おまっ……なんだよその格好!」
「なにって、制服だろ」
グレイが身にまとっている制服と同じだが、違う点が二つ。ネクタイではなくリボン、ズボンではなくスカートだ。
グレイは、スカートから伸びる足を凝視していた目を、慌ててそらした。
「グレイ」
先ほどナツが降りてきた車がゆっくりとした速度で近づいてきて、二人の前で止まる。
車の中から名を呼ばれてグレイは振り返った。
「おはよう」
挨拶の言葉をかけてきたのは、ナツの父親だ。グレイは軽く会釈をすると、ちらりとナツを見やりイグニールに顔を近づける。
「これ、どうしたんすか」
「ああ……そういう事だから、頼むよ」
イグニールは説明をしようと開いた口を、笑みを浮かべることで誤魔化し、ナツへと視線をずらした。
「父ちゃん、車を止めてそのまま会場に行くからな」
ナツが頷くと、イグニールは行ってしまった。
グレイは呆然とそれを見送り、ナツへと首をひねる。
「そういう事って、どういう事だよ」
「俺、試験落ちたんだけどさ、絶対ここがよかったから二次受けたんだ」
「妖精学園は女子しか二次募集して……お前、まさか」
ナツは無邪気な笑みを浮かべ、ペースサインを作った。
「今日から女子!」
グレイは言葉をつまらせた。常識では理解不能なナツの行動にではなく、ナツの笑顔にグレイは何も言葉を返せなくなるのだ。それは、出会って間もなくの頃から、ずっと変わらない。
グレイは苦笑すると、ナツの頭に両手を伸ばし、跳ねている髪を押さえるように撫でる。
「女子なら髪もちゃんとしろよ」
「父ちゃんがかつらとか用意してくれたんだけど、邪魔だから止めた」
活発的に動くナツだ、人工毛などつけても、すぐに外れてしまいそうだ。
「んなのなくても十分かわいいよ」
目を細めるグレイに、ナツは頬を紅潮させて視線をそらす。
「……かわいいとか言うな」
恥ずかしげに身じろぐナツの姿は、更にかわいく見える。どきりと跳ねる胸に、グレイはナツの名を呼ぼうと口を開いたのだが、その口からは溜め息しか漏れなかった。
入学式の日、時間も迫っていれば当然、門前は人通りが多い。周囲から見ればいちゃついているナツとグレイは、人の目を集めていたのだった。
「会場行くか」
20110821
グレナツ風味でもある