Trick or Treat
秋には収穫祭以外にもハロウィンという最大イベントがある。仮装した子供たちが街を回り菓子を集める。
それはナツにとっては幼い頃からの夢の様なイベントだった。
「大・収・穫!」
カボチャ型の容器には、こぼれ落ちるほどに菓子が詰まっている。ナツは高笑いをしながらギルドへと戻ってきた。
ナツの仮装は黒猫だ。桜色の頭から生える黒い猫耳と腰から生える長い黒い尾。シンプルな黒いシャツと黒いハーフパンツ。
ハロウィン前から魔法屋で限定発売された”一日変身キャンディー”の効果で、明日の朝までは仮装した格好のままだ。
「たくさん集まったわね」
ギルドで本を読みながら時間を過ごしていたルーシィが、ナツの手にしているカボチャ型容器を覗きこんだ。
ナツが慌てて背後に隠す。
「やらねぇぞ」
「別に、とらないわよ」
「菓子欲しいならルーシィも貰ってくればいいだろ。好きじゃねぇか、コスプレ」
「別に好きじゃないから!それに、子供じゃないんだからお菓子貰って喜ばないわよ」
機嫌を損ねてしまったようだ。口元を歪めるルーシィをじっと見つめていたナツは、眉を下げた。
「お前、ばぁちゃんみたいだな」
ナツとルーシィの年齢は、外見からして変わらない様に見えるのだが、性格で差が出てしまう。
怒って行ってしまったルーシィを見送って、ナツは菓子を一つ口に含んだ。口どけの良いチョコレートの甘い香りが口の中に広がる。
マグノリアの街は一通り回ったから、残るはギルド内だけといっていい。周囲を見渡して標的を探していると、いかにも菓子など持っていなそうな人物を見つけた。
菓子を満足するほど手にしたナツは悪戯へと意識を切り替え、階段を駆け上り、酒を飲んでいるラクサスに近づいた。
「トリック・オア・トリート!」
「あん?」
顔をしかめたラクサス。
暫く沈黙が続き、ナツは耐えきれずに口を開いた。
「知らねぇのか?お菓子くれなきゃ、イタズラするぞ。って意味だ」
マグノリアに長く住んでいて知らないわけがないだろう。
窺ってくるような視線に、ラクサスは口端を吊り上げて笑みを浮かべると、ナツの顎に手をかけた。
「お前に悪戯されるってのは気にくわねぇな」
「じゃぁ、よこせ……って、うわ!」
ラクサスはナツの手を引くと、その身体をテーブルの上に引きずり込んだ。
唖然とするナツを見下ろして、ラクサスはナツのマフラーに手をかけた。マフラーが外されると、ナツはようやく慌て始める。
「何すんだ!」
ラクサスははぎ取ったマフラーを床に放ると、シャツの中へと手を差し込んだ。
「何って、犯してほしいんだろ」
「おか……ち、違ぇよ!菓子だ、お菓子!」
一気に顔を赤らめるナツに、ラクサスはクっと喉で笑った。
「悪戯されねぇために、仕方ねぇから犯してやるよ」
「聞けよ!」
ナツが拳を振るうが、それは狙ったラクサスの顔に触れる事はなかった。ラクサスの手で受け止められてしまい、逆に余計身動きが取れなくなってしまう。
ラクサスがナツの首に舌を伝わすと、ナツの瞳にはじわりと涙が浮かんだ。
「つか、ちょ……マジでやめ、」
今日に限って二階は人気が少ない。最初に居た者たちも、とばっちりを受けない様にと一階に逃げてしまった。己でどうにかしない限り逃げる事は不可能だ。
視線を彷徨わせて逃げ道探っていると、抵抗を止めたナツに訝しんだのか、ラクサスが顔をあげた。
ナツと目が合うとゆっくりと口を開く。
「選ばせてやる」
「は?」
「酷くされたいか優しくされたいか、どっちだ」
逃げる方に思考が回っていて、ラクサスの言葉を理解するのが遅れている。
きょとんと瞬きを繰り返すナツを見つめていたラクサスは、噛みつくように口付けた。抵抗するナツの手がラクサスの身体を押し返そうとするが、その手は震え、力など入らない。
唇が離れれば、互いの口から熱い吐息が漏れる。
「時間切れだな」
熱っぽい目で見つめてくるナツの耳に、ラクサスは口を寄せた。
「特別に両方くれてやる」
耳元で囁く掠れた声。猫のものになっている耳をあまがみされ、ナツはびくりと体を震わせる。
抵抗するだけだった手は、いつの間にか縋るようにラクサスの服を掴んでいた。
20101106
Trick or Treatのラクサス編という事で。ミーヤ様からのリクでした。