Hello





朝目が覚めたら、自分の隣に赤の他人が寝ている。こんな状況、大人の一夜の間違いとでも考えればいいのか。だが、そんなダメな大人たちの話しとは違う点がいつくかある。
相手の事を全く知らないはずなのに他人の様な気がしない。相手が裸だからすぐに確認はできたが同性だ。そして未成年どころか、赤ん坊だった。

「何、これ」

爽快な朝には似つかわしくない脂汗を額に浮かべた。
ナツは昨晩仕事から帰還し、ハッピーと共に帰宅の後就寝についた。そこまではナツ自身にも記憶があるしベッドには一人で寝ていたはずだ。しかし、朝目が覚めたナツの隣には生まれてまだ間もないだろう赤ん坊が眠っていた。

「もしかしてハッピーか!?おおお、何で赤ちゃんなんかに」

身体を震わせて赤ん坊に触れようとした瞬間、見知った姿が顔をのぞかせた。ナツと同居している猫のハッピーだ。

「おはよう。ナツ」

「ハッピー!お前何で赤ちゃんになってんだよ!」

「何言ってるの、ナツ」

ハッピーは首をかしげながらナツへと近づいていく。そして、視界に入ったのはナツと赤ん坊の姿。

「何、これ」

ナツと同様に毛皮越しにも分かるほどに脂汗を浮かべて、ハッピーはナツを見上げた。ナツは、ハッピーにつられるように顔を強張らせた。

「だからハッピーだろ」

「オイラじゃないよ!ていうか、何でここに赤ちゃんがいるのさ!……ナツの知ってる子なの?」

ハッピーの言葉に、赤ん坊を見つめて思考をめぐらすが、全く記憶に引っかからない。

「いあ、知らねぇ」

ナツのあっけらかんとした表情にハッピーは深くため息をついた。付き合いは長いが、こういうところは成長しているようには見えない。
素性が分からないまま、今まで眠っていた赤ん坊が目を覚ました。閉じていたまぶたがゆっくりと開き、それにいち早く気付いたナツが赤ん坊を覗き込む。

「起きた」

赤ん坊の大きな瞳がナツを映す。見覚えのある瞳だった。幼いながらも猫のようにつりあがった目。陽の光に輝く瞳の色は、シーツへと散らばる髪の色と同じ桜色。

「何か、見たことあるな」

真剣に赤ん坊を見つめるナツ。ハッピーは弾かれたように顔を上げた。

「この子、ナツにそっくりだよ!」

瞬きを繰り返すナツに、赤ん坊は紅葉のような手を伸ばしていた。求める様に、必死に。
ナツとハッピーの二人では、何も解決する事はできない。何より、これ程までにナツに似ている赤ん坊が、赤の他人とは言い切れないのだ。身に覚えがなくとも、もしかしたら生き別れのナツの弟にあたるのではと、ハッピーの頭の中では考えがめぐるばかりだった。

裸だった赤ん坊をシーツで包み、ナツとハッピーはギルドへと向かった。

「じっちゃーん!」

「マスター!」

ギルドに駆け込むナツ達に一番に声をかけたのはミラジェーンだった。

「おはよう。ナツ、ハッピー」

ミラジェーンに返事を返す様子もなく、二人はマスターであるマカロフを探す。定位置となっているカウンターの上に居ない。

「ミラ、じっちゃんどこだ?」

「マスターは定例会でしょ」

数日前からマカロフはギルドを開けていた。思い出して顔を見合わせるナツとハッピーは表情が情けなく歪む。

「何かあったの?」

いつもとは様子の違うナツ達を変に思わないはずもない。ミラジェーンは、ナツが抱えているものに目を止め、顔をのぞきこませた。

「……赤ちゃん?」

ナツの腕の中、シーツに包まれて眠っているのは赤ん坊。特徴ある桜色の髪を見つめて流石のミラジェーンも思考を停止させた。
桜色の髪を持つ者など滅多にいない。そんな色素を持って生まれた赤ん坊。ミラジェーンの中で答えは一つしか出てこなかった。

「大変よ、皆!ナツが赤ちゃん産んじゃったわ!」

ミラジェーンの言葉に、飲食を口にしていた者は勢いよく噴出した。食べ物を運んでいた従業員は手を滑らせてトレーをひっくり返したり、大惨事。
ギルド内を静寂が支配し、幾多の目がナツへと向けられる。

「お、俺が産んだのか」

驚愕の事実とばかりに身体を震わせるナツに、ハッピーはがくりと肩を落とした。

「ナツ、男は赤ちゃん産めないよ」

暫くしてギルドは絶叫に包まれた。

赤ん坊は女性だけでなく男性をも夢中にさせた。
ナツの手から離れ、代わる代わる人の腕に抱かれる。ギルドに赤ん坊など来る事はないから珍しいのだろう。癒しを与える小さな存在に皆表情が緩んでいる。
子持ちであるマカオは、ロメオの赤ん坊だった時の事を思い出しているのだろう。懐かしそうに、赤ん坊を抱いていた。柔らかい頬に触れる指は優しく、赤ん坊も嬉しそうに声を上げている。

「それにしても、ナツにそっくりだな」

ナツに知らないときっぱり言い切られれば、周囲もそれ以上疑う事もなかった。何せナツだ、どう頑張っても想像する事すらできない。
マカオに赤ん坊を手渡され、赤ん坊を抱えながら顔を覗き込むナツ。赤ん坊の手がナツの頬に触れれば、小さな体温にナツが笑みを浮かべる。
最初はシーツで包まれていただけで裸だった赤ん坊も、昔ロメオが使っていた服をマカオが準備してくれ形になっている。
マカロフが帰ってくるまでは何とかなるだろう。そう考えていたナツだったが、ふと赤ん坊に違和感を覚えた。

「何か、でかくなってねぇ?」

持ち上げてみて首をかしげる。そんなナツの動作に、ミラジェーンはくすりと笑みをこぼした。

「あら。ナツったらすっかりお父さんね」

微笑ましいそうな視線が集まる。親バカに見えたのだろうが、ナツはそういう意味で言ったのではない。実際に身体が大きくなっている様な気がするのだ。
そんな中ギルド内の気温が異常なほどに下がった。

「ぐ、グレイ」

誰かの声と同時に周囲がざわつく。ギルドの入口に、殺気さえ纏っていそうなグレイが立っていたのだ。
陽の光を逆光にしていて表情が読めないのが、更に怖い。ナツは気にした様子もなく赤ん坊の違和感に首をひねっている。
グレイはギルド内へ足を踏み入れ、ナツの前で立ち止まった。

「ん?何だよ、グレイ」

「……誰だ」

赤ん坊を落とさないように抱えなおしたナツに、グレイは射殺しそうな程の鋭い眼光で赤ん坊を睨みつける。

「誰とのガキだ!!」

「はぁ?お前、何言って」

グレイはナツの両肩を鷲づかみにした。
指が食い込むほどに力が入っていて痛い。顔を顰めるナツだったが、いつもは見せない必死なグレイに気圧されて文句も言えない。

「手出したのか出されたのかどっちだ!場合によっちゃ手加減できねぇからな!」

「冷てぇ!!手、離せバカ!」

赤ん坊を抱えているせいで振り払う事も出来ない。
氷漬けにされていく肩にナツは顔を強張らせた。このままでは手に力も入らなくなり赤ん坊を落としかねない。それを危惧し、助け船を出したのはミラジェーンだった。

「落ち着いて、グレイ。違うの」

「何が違うんだよ、ミラちゃん!どう見てもナツのガキだろ!」

最終的に聞こうともしないグレイは、数人がかりでナツから引き離された。
ナツと赤ん坊が血縁関係にあるだろうと疑ってしまうのは仕方がないだろう。ナツ本人が知らないと言っても、似すぎているのだ。
何度目かの説明をされて、やっと落ち着いてきたグレイは、驚くほどに赤ん坊を可愛がっていた。
ナツの子でないと理解はしたものの、似ているだけに重なって見えるのだろう。正直気持ちが悪い。

「かわいいな、こいつ。髪とか目なんて、特によぉ」

でれでれと頬を緩ませて赤ん坊を抱いているグレイを周囲は遠巻きに見ていた。ナツも距離を置きたいのだが、自分が連れてきた赤ん坊に何かするのではないかと心配だった。
そんなナツの隣に、グレイは赤ん坊を抱えたままで立った。

「こうすると夫婦に見えるな」

ねぇよ。
ギルドの心が一つになった瞬間だ。ルーシィならすかさず突っ込んだろうが、今は不在の上、ルーシィ以外にそんなつわものはいない。
何言ってんだと視線を向けてくるナツ。グレイは頬を染めながら赤ん坊をナツへと向けた。大きな猫目がナツを見上げる。

「ママだぞー」

始まったと、幾多の鬱陶しげな視線がグレイへと集まる。ナツも、げっと声をもらして硬直した。
誰も止めないのをいい事に、グレイの行動はエスカレートしていく。
グレイは赤ん坊を自分へと向けて、にっこりと笑みを浮かべた。

「パパだ。パーパ。ほら、言って……」

「てめ、何言ってんだ!」

我に返ったナツが赤ん坊をグレイから奪い返し、赤ん坊を間近で見つめた。

「あんなのバカで十分だからな」

「あーぶ」

「バカだ、バカ。バーカ」

ナツは赤ん坊をグレイへと向けた。グレイが赤ん坊ににこりと笑うと、赤ん坊は小さな口を開いた。

「ばーぁ」

赤ん坊に対してしっかり喋れという方が無理なのだ。それでも、何となく伝わるだけでも上出来だろう。よし、と呟くナツにグレイは顔を歪めた。

「酷いじゃねぇか、ナツ!」

「うわ!触んな、バカ!」

「教育は赤ん坊の時からするもんなんだよ!間違いを今正してやる!俺はパパだぞ、パパ!」

グレイがナツの腕の中から赤ん坊を奪おうとしている。しかしナツとて必死だ、余計な事を拭き込まれては堪らない。

「ナツ、グレイ!危ないからやめ……」

ミラジェーンの咎める声にグレイの力がわずかに緩んだ。奪われまいと赤ん坊を引っ張っていたナツは、グレイの力が緩んだことでバランスを崩した。ナツの身体が背後に傾き、腕の中にいた赤ん坊がすっぽ抜けた。
咄嗟の事で反応が出来ない。宙を舞う赤ん坊は引力にしたがって床へと落下していく。

「誰か、受け止めて!」

「くそ!」

ナツが大勢を整えて、赤ん坊の元へと駆け寄ろうとするが、間にあうとは思えない。赤ん坊が落下する場所には運悪く誰もいなかった。赤ん坊が無残にも叩きつけられる。誰もが最悪の予想をしただろう。
しかし、心配は無駄に終わった。

「……何やってんだ」

ちょうどギルドに足を踏み入れたラクサス。ため息交じりに呟いた彼の腕の中には、無事な姿の赤ん坊。
ギルド内にため息が漏れる。

「ナイス!」

ナツが安堵に声を上げた。
赤ん坊は、大きな瞳でラクサスを見上げた。きらきらと輝いているように見える。興味を示しているようだ。

「あー」

小さな手がラクサスの服を掴んだ。

「何だ、このガキ」

グレイが慌てたように赤ん坊へと駆け寄った。

「ほら、パパのとこにおいでー」

「誰がパパだ!」

グレイを止めようとナツが割って入る。
騒ぐ二人を呆れたように見つめるラクサス。赤ん坊の紅葉のような手がラクサスへと伸ばされる。顔を寄せたラクサスの頬にぴたりと触れた。

「ぱーぱ!」

嬉しそうに笑う赤ん坊にラクサスは顔をしかめただけだった。グレイは声なき絶叫をあげ、ナツは首をかしげるとラクサスを見上げた。

「何だよ。ラクサスが父ちゃんだったのか」

「んなわけねぇだろ。むしろお前にそっくりじゃねぇか。いつの間にガキなんか作りやがった」

赤ん坊は、ラクサスに抱かれたまま手をナツへと伸ばした。

「まんま」

ギルド内が凍りついた中、ナツは不満そうに口元を歪めた。

「俺は飯じゃねぇぞ」

「そういう意味じゃねぇだろ」

息ぴったりにラクサスが突っ込んだ。

「ど、どういう事じゃ……」

乾いた音と共に声が落ちる。振り返れば、マカロフが立っていた。定例会から戻ってきたのだ。取り落とした杖が床に転がっている。
ナツは状況がつかめずにきょとんと瞬きを繰り返すだけだったが、ラクサスは祖父であるマカロフが何を考えているのか分かったのだろう、顔を引きつらせた。
何せラクサスは赤ん坊を抱き、その赤ん坊は楽しげに笑顔を浮かべながら、ラクサスとナツを父母と呼んでいるのだ。

「ジジィ……」

「じっちゃん!」

ラクサスの続けられる言葉は、ナツの待ちわびた様な声にかき消された。ナツとラクサスの声に、赤ん坊は不思議そうに大きな瞳でマカロフを見つめた。

「じー?」

こてんと愛らしく首をかしげる赤ん坊の姿を目にして、途端にマカロフの表情が緩んだ。

「ひ孫か……」

「違う!」

ラクサスが声を荒げると赤ん坊はびくりと体を震わせた。まずいと周囲が思った時には遅い。赤ん坊はぐしゃりと顔を歪め、一呼吸置いた次の瞬間、耳を刺激するような泣き声がギルドを支配した。
泣き声なんて表現は甘い、恐竜の鳴き声だ。ヘッドホンで耳をふさいでいるラクサスでさえ顔を顰めている。

「……おい、どうにかしろ」

ラクサスが隣にいたはずのナツへと顔を向ければ、倒れていた。嗅覚同様に聴覚も優れているのだ、防ぐ暇もなく間近で耳を刺激した泣き声に、意識を飛ばしたのだろう。

「ここはワシに任せなさい。昔はラクサスもこうして泣いておったもんじゃ」

「余計なこと言うんじゃねぇ。クソジジイ」

ラクサスは怒りで震える手で赤ん坊をマカロフへと差し出した。
子守に経験があるのなら安心だ。そんな周囲の期待はさっくり裏切られることになる。
赤ん坊を受け取ったマカロフの腕が次第に大きさを増していく。音を立てて筋肉が浮き出る。嫌な予感にラクサスが止めようとするが、遅い。マカロフは力いっぱい赤ん坊を天高く投げ飛ばした。

「たかいたかーい!」

確かに高い。
見た者すべてが目を疑う光景だった。投げ飛ばされた赤ん坊は天井を突き破って行ってしまった。
赤ん坊が突き破って行った天井から木の破片が降りかかってくる。真下にいたラクサスは頭に降りかかるそれに気付いた様子もなく、ただ祖父を見下ろしていた。赤ん坊を何のためらいもなく投げ飛ばした事もそうだが、自分が幼い頃も、まさかそんな風にあやしていたのではないかと背中に冷たいものが走る。

「お、おい、じーさん!俺とナツの子供になんてことすんだ!」

「う、うぜぇ……」

グレイの声で目を覚ましたナツは身体を起こした。耳の痛さに加えて、脳が揺らされているみたいだ。

「いてて……あ?あいつどこ行ったんだ」

静寂が包むギルド内。先ほどまでの騒ぎの原因がいなくなっている事にナツは周囲を見渡すが、次の瞬間ナツは再度床に沈んだ。新しく天井を突き破り、落下してきた赤ん坊がナツの頭上に着地したのだ。
ナツの顔は床にめり込んでしまった。

「お、俺の妻子が!」

駆け寄るグレイの言葉には、もはや誰も突っ込む気もしなかった。ナツは無事だとしても赤ん坊は酷い事になっているのではないだろうか。見るに堪えないと顔をそらす周囲の前で、グレイは赤ん坊を抱き上げた。

「お、泣きやんでるな」

赤ん坊は無傷で笑っていた。通常では考えられない事態は不気味としか言いようがない。だが、ナツと似ているというせいか、それも納得してしまえる。
その証拠に、ナツは平気な顔で起きあがった。

「いてー!!何なんだ、一体!」

目を吊り上げたナツの口から炎が噴き出た。
天高くまで行っていただろう赤ん坊が頭上に落下したのだから、その痛手は想像を絶する。滅竜魔法で身体が強化されていなければ、怪我どころではないだろう。
赤ん坊が騒ぐナツへと手を伸ばした。グレイから受けとって抱いても、赤ん坊はナツに向かって手を伸ばす。何かをねだっているようだ。

「もしかして、これか?」

ナツの指先に炎を灯すと、赤ん坊は嬉しそうにその指を掴んだ火が好きなど更にナツに似ている。誰もがそう思ったのだが、それだけではなかった。

「お。食った」

ナツの指に灯された小さな火は赤ん坊の口へと吸い込まれてしまったのだ。
ナツの平然とした声とは逆に、周囲は絶叫した。グレイは、ナツ似だなと笑い、流石のラクサスも驚いたように微かに目を見開く。そんな中マカロフは、やはりと言った様子で頷いた。

「ナツ、それは人ではない」

マカロフも初めて目にした時は、ラクサスの事もあって気付かなかったが、次第に人には必ずある生命力を感じない事に気付いたのだ。
マカロフの言葉は、理解するのに時間を要した。理解しても納得はできない。当り前だろう、マカロフは口を開いた。

「ナツ、仕事に行って、魔法でも掛けられてはおらんか?」

「……そういや、昨日の仕事で変な魔法食らったな」

ナツはいつものチームで仕事に出ていた。モンスターの討伐だったのだが、そこで出くわした闇ギルドと一悶着あったのだ。その時に見た事もない様な魔法をかけられた。
その魔法が何なのか分からないうちに術者は逃げてしまったのだ。

「それは、魔法を取り出す魔法じゃ」

「魔法を取り出すぅ?」

「おそらく、身体から抜け出た魔法が、元に戻らないままになってしまったんじゃ。赤ん坊の姿をしているのは、消えてしまうのを防ぐため。魔法が自ら存在をとどめようとしたんじゃろう」

それならば、火を食べた事も納得できる。ナツは、腕の中にいる赤ん坊を見下ろした。目が合うと赤ん坊は手を伸ばした。

「ちょっと待ってくれ、じーさん!」

掴みかかりそうな勢いでグレイがマカロフへと詰め寄る。その必死さに、マカロフは一歩足を後退させた。

「あの赤ん坊が魔法だってのはいいが、何でラクサスが父親なんだ!」

あ、そこ気になるんだ。緊張感は、グレイの言葉によってかき消されてしまった。ラクサスは面倒くさそうにその場を離れようとしたが、赤ん坊に服を掴まれて止められる。汚れのない瞳で見つめられて、思わず足が止まってしまったのだ。

「何で、俺が父親じゃねぇんだ!」

痛いほどの想いを叫ぶグレイに、マカロフは引いていた。

「そ、それは、ラクサスが滅竜魔法の魔水晶を体内に宿しておるからじゃろう。性質は違うが、同じ魔法じゃからな。通ずるものでもあったんじゃろ」

グレイはラクサスを睨みつけた。だが、その顔はすぐに情けなく歪んでしまう。

「ぱーぱ!まんま!」

きゃっきゃと可愛らしい声を上げて笑っている赤ん坊は、ナツに抱かれて、小さな紅葉の手でラクサスの服を掴んでいる。

「俺は飯じゃねぇぞ」

「だから、違ぇよ」

グレイは真っ白に燃え尽きて、床に沈んだのだった。




2010,06,28
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