伝説の木の下で(高一グレ・ナツ・ルー・高三ラク)
「ラクサス、俺と勝負だ!!」
ナツの声が夏空の下で響き渡った。
夏休みが明けてまだ半月、昼休みにナツに呼び出されたラクサスは、校舎内から離れた場所にある木の下に来ていた。その木は妖精学園の伝説の木と呼ばれ、その木の下で告白した者は両想いになるというのだ。
そして訪れたラクサスに、待ち構えていたナツが放った言葉が、それだった。
「……そんな事で呼び出したのか」
ラクサスの冷たい視線にナツははっとした。
「違ぇ、間違えた……ちょっと待て」
ナツは、犬に待てでもする様に手のひらを前へ出した。もう片方の手でポケットを探り一枚の紙切れを出すと、そこに書かれている文字に視線を走らせる。
「俺お前が好きなんだ。へん……恋人として付き合ってくれ」
「断る」
ナツが紙から顔を上げたと同時にラクサスの無感情な声が響いた。
ナツは信じられないとばかりに目を見開いた。
「嘘だろ、俺ちゃんと言ったじゃねぇか」
「くだんねぇ。そういうのはグレイにでも言ってやれ。用がねぇんなら俺はもう行くからな」
「お、おい、ラクサス!」
ナツの呼びとめる声にも振り返ることなくラクサスは校舎へと向かって行ってしまった。
ナツの手が小刻みに震えながら紙きれを握りしめた。
「嘘!ナツ振られたの!?」
教室に戻って来たナツは、驚愕するルーシィの言葉に力なく頷いた。ナツには珍しく湿気ってそうな空気を出して机にへばり付いている。
「信じらんない。ラクサスは絶対ナツの事好きなはずなのに」
ぶつぶつと呟くルーシィにナツは顔を上げた。
「俺、ちゃんと言ったんだ。だけど、そういうのはグレイに言えって言われた」
ぐしゃりと顔を歪めるナツの表情など滅多に見られるものではない。それだけ衝撃が強かったのだろう。
「あたしの考えた台詞がダメだったのかしら。ナツらしく分かりやすい様にって思ったんだけど……ナツ、諦めちゃだめよ!もう一回告白しましょ」
両手が拳を作る。力を込める様なルーシィの動作にナツはゆっくりと首を振るった。
「やめとく」
「な、なんで?ナツが諦めるなんて、」
ナツは涙を溜めた瞳を細めた。
「だって俺、ラクサスに嫌われたくねぇんだ」
震える声にルーシィは顔を歪めた。ここまで弱々しいナツの姿は初めて見たのだ。これ以上は何を言ってもナツを傷つけるだけだろう。
ルーシィは鞄の中からポッキーの箱を取り出した。開封済みだがまだ半分は残っているそれをナツの目の前に置いて、立ちあがる。
「ルーシィ、どっか行くのか?」
窺ってくる猫目にルーシィは苦笑した。
「すぐに戻るからナツはそれでも食べてて」
ルーシィはナツに笑顔で手を振りながら教室を出ると、眉をつり上げた。怒りを込めるかのように早い足取りで一直線に廊下を突き進む。一年であるナツ達の教室から階を移動して三学年の教室へと向かった。
昼休み中のざわついた教室。その入り口で立っている一人の生徒に声をかける。
「ラクサス呼んでくれる?」
有無を言わさない声に生徒は頷いて教室を見渡した。
ラクサスもルーシィの存在に気が付いたのか面倒くさそうに顔を顰めてゆっくりと立ち上がった。
「今度はてめぇか」
「何であたしが来たか分かってるわよね」
ラクサスは舌打ちすると教室から出た。廊下を挟んだ向かいの窓に背を向けて寄りかかった。
「どうせあのバカの事だろ」
「それ以外にないでしょ。何でナツの事振ったのよ!」
昼休みで人の行き交いが激しい廊下。ルーシィの憤る声に、生徒たちが驚いて振り返る。しかしルーシィはそれにも気に留めずに真っすぐにラクサスを睨んでいた。
ラクサスはルーシィの言葉に眉をひそめた。
「……まさか、あれが告白だっつーんじゃねぇだろうな」
ラクサスの様子がおかしい。ルーシィの瞳に動揺に揺れた。
「何よそれ。ナツは告白したんでしょ?」
ラクサスは脱力したように深く溜め息をついた。片手で目を覆う姿は、ラクサスには珍しく大分参っているようだ。
「冗談じゃねぇ」
説明を求めてラクサスに詰め寄ったルーシィは、ラクサスから告げられた事に顔を引きつらせた。
「あいつ、カンぺなんて用意してたの!?」
「あれをまともに取り合えってか?」
ラクサスはナツの告白を罰ゲームか遊びだと勘違いしていたのだ。ルーシィも呆れてものが言えない。
「と、とにかく、ナツは本気なの。今すぐ行ってあげて!」
元気のないナツなど見たくないのだ。
ルーシィの縋るような声に、ラクサスはナツのいる教室へと足を向けたのだった。
その頃ナツは、グレイに教室から連れ出されていた。昼休みでどこも騒がしい中階段を上り、立ち入り禁止となっている屋上に足を踏み入れる。
「ナツ、俺と付き合えよ」
ぼうっと空を見ていたナツは反応が遅れた。
グレイの言葉を脳内で繰りかえして、目を瞬く。
「今なんて言った?」
「お前、ラクサスに振られたんだろ」
傷ついたように顔を歪めるナツにグレイは歩み寄る。ナツが足を後退すればその背はすぐに柵で止められた。
逃げ場をなくなったナツに迫る様に、グレイは策へと手をかけて顔を寄せる。
「俺が忘れさせてやるよ」
だから、俺と付き合え。
低く囁く声。真っすぐに見つめられ、ナツは操られる様に口を開いた――――。
次回とかそれ以上の予告。
まるで計った様なグレイの告白にナツの答えは。そして、タイミング良くナツを探しに来たラクサスがその場を目撃してしまう。
互いに想いあう二人はすれ違い、やがて別れがやってくる。
「ジジィ、俺は留学する」
ラクサスの決意のこもった言葉に祖父であるマカロフは頷くしかなかった。
二人の関係はどうなる?待て、次号以降!(続かねぇス)
20100917