想い続けた





昼過ぎで客足が少なくなった頃ルーシィは休憩室に入った。

「あれ、ナツ。今日休みなのにどうしたの?」

ナツは私服姿でソファに身を預けていた。

「ルーシィ、おつかれー」

ルーシィは頷いてナツの隣へと腰掛けた。
ナツはファイルを見ていたようで、また一枚めくった。ページにはケーキの写真も貼り付けられており、記録のようだ。

「何見てるの?」

「これ、ラクサスが今まで大会に出したケーキなんだってよ。じっちゃんが貸してくれたんだ」

ファイルには何種類ものケーキが載っている。それが全てラクサスの考案し自作したケーキなのだ。
ナツが見ているページに載っているケーキは最近の物で金賞をとっている。

「すごい、やっぱり流石ね。確か毎回受賞してるのよね」

「ガキの頃のもあるんだってよ……ほら」

ナツがファイルの最初のページを開いた。
写真にのっているのは小型のケーキ。淡いピンク色で、その上には桜の花の砂糖漬けが乗っている。少年が考えるには可愛すぎる作品だ。

「これが初めて出品した作品になるわけね」

「この時は特別賞だったんだな」

今のラクサスからは想像もつかない作品だ。
ルーシィは笑みを浮かべながらケーキのタイトルへと視線を移す。

「桜か……ナツの髪の色と同じね」

タイトルは桜。
写真を眺めていたルーシィは目を見張った。評価も共に書かれていて、その欄に気になる分があった。
――――まるで少女を連想させる様な可愛らしさ。
ルーシィの脳裏をよぎったのは先日の食事会だ。マカロフが暴露したラクサスの話し。そして今見ている作品。
ルーシィは浮かんだ思考を消し去る様に首を振るった。

「ね、ねぇ、他はどんなのがあるの?」

ルーシィの言葉に、ナツは難しそうな顔で呻った。

「何か、全部似てるんだよな」

ナツに差し出されたファイル。ナツの言葉を疑問に思いながら、ルーシィはファイルを捲っていく。
年に一度開かれる大会だからファイルに収められている数から見て、幼い頃から毎回出品しているのだと分かる。

「本当だ。これもこれも……タイトルも同じ」

もちろん同じ作品ではない。しかし、少しずつ成長を見せていくように細かい細工が増えていくが、タイトルも同じで色も淡いピンク色。

「徹底してるわね。こだわりでもあるのかしら」

そうでなければ、ここまで変わり映えのない作品を、あのラクサスが作るだろうか。しかも大会に出品する作品でだ。
何故だと思考を巡らせるルーシィとナツ。そこにマカロフが休憩室に入って来た。従業員が休みに入っている間は店長のマカロフも厨房に出ているのだ。
珍しくコックコートに身を包んだマカロフが、ナツ達の向かい側のソファに座りこんだ。

「じっちゃん、おつかれー」

「お疲れ様です」

マカロフは、ルーシィがファイルを見ているのに気付いてナツへと視線を向けた。

「どうじゃ、ナツ。少しは勉強になったか」

「やっぱすげーよな!でも、何で全部同じなんだ?」

「タイトルもそうだけど、何だか似てませんか?」

ナツの言葉に付け加える様にルーシィが言う。それにマカロフは、頬をかいた。

「ワシもそう思って聞いては見たんじゃが答えてくれなくてのう」

評価されているから、強く問いただすのも気が引けるのだ。

「もしかしてピンクが好きなんじゃねぇか?」

ナツの言葉にルーシィとマカロフは嫌そうに顔を歪めた。
ピンクが悪いわけではないのだが、その色とラクサスはどうしても連想できないのだ。ピンクに包まれているラクサスなど想像もしたくない。

「桜が好きなんじゃない?」

「そういえば、昔からよく桜を見に行っておったのう」

子どもの頃から、春になって桜が咲き始めれば外へ出ていく。そんな行動が多かった事を思い出し、マカロフが納得しかかった時だ。

「おい、ジジィ」

休憩室の扉が開き、話題に上っていた人物ラクサスが顔を覗かせた。
三人の視線がラクサスへと集中する中、ラクサスの表情が固まった。その目の先にはルーシィが開いているファイル。
ラクサスはずかずかと休憩室の中に入ると、ファイルを奪い取った。

「ジジィ、何でこれがここにある」

不機嫌な声に、マカロフは眉を落とした。

「ナツの勉強になればいいと思って貸したんじゃよ。何じゃ、問題があるのか?」

ラクサスはナツへと視線を移すと顔を歪めた。きょとんとするナツに舌打ちをして休憩室から出ていってしまった。

誰もが気付く事はなかった。ケーキがなっちゃんをイメージして作られた事を。
身の回りを探れば、おそらくラクサスの周りにはなっちゃんが大量に出てくるのだろう。




20100914
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