滅竜戦隊ドラゴンスレイブ
『緊急出動!緊急出動!』
警報と同時に響く声。それに反応して、ナツが立ちあがった。
「よっしゃ、事件だ!!」
やる気満々に表情を輝かせる姿はあまりにも不謹慎だろう。事件という事は誰かしら被害にあっているという事なのだから。
円形のテーブルで同席していた内の一人ウェンディが窘めるような視線を向ける。
「ナツさん、事件なのに喜んじゃダメですよ」
「だって事件だぞ!?ここんとこずっと暇だったじゃねぇか!」
これで暴れられる。
喜びを隠さないナツを止められる者などいない。それにしても場所はどこなのか、表示される地図を見て確認したウェンディは眉をひそめた。同じように同席しているガジルへと振り返る。
「ガジルさん、ここ」
幼い指が指し示した地図の場所。そこは、ガジルにはとても心当たりがあった。
同席者最後の一人であるラクサスが鼻で笑う。
「てめぇのとこじゃねぇか」
「今の俺には関係のない場所だ」
ガジルが顔を顰める。その会話に、やっとナツが地図へと視線を向けた。
「お。ここってお前の前の会社だろ!」
「ナツさん、会社って……」
間違ってはいないのだけど。
今回の事件現場は色々秘密の多い幽鬼産業だった。ナガジルの後継人だった人が設立した会社なのでガジルも以前働いていたのだが、今は他の人出にわたってしまいガジルの言うとおり現在は無関係だった。
「ていうか、さっさと行きなさいよ!出動だって言ってるでしょ!」
声を荒げたのはスーツ姿のルーシィだった。ちなみに先ほどの緊急出動を告げる声はルーシィだ。ここでは補佐役をしている。
ルーシィの声にナツは真っ先に飛び出していき、ウェンディも慌ててナツを追う。ガジルがそれをゆっくりと追う。だがしかし、ラクサスだけは立とうともしない。
「ちょっと、ラクサス!あんたも……出動してください」
ラクサスは聞く耳も持たないようだ。というよりもルーシィの存在さえも無視している。ルーシィは顔を引きつらせた。
「そういえば、この場所ってグレイの家の近くだったわよね。またナツのおっかけを……」
がたりと椅子が動く。反射的に立ちあがってしまったラクサスは、舌打ちをして出ていった。
自分以外誰も居なくなった部屋。それにルーシィは深くため息をついたのだった。
「出動だけで、何でこんなに疲れなきゃならないのよ」
ルーシィが嘆くのも仕方がない。こういうやり取りは毎回繰り返されているのだから。
そして、最速現場に駆け付けたナツ達は、瞬時に全身スーツにヘルメット姿に変身していた。お約束通り登場時の名乗るシーンだ。
「悪しき者を焼き尽くし」
「癒しの風で心を救い」
「鋼の心で悪を貫く」
ナツ、ウェンディ、ガジル。三人が高らかに謳うが、その後が無言になってしまった。三人の目が一人へと向けられる。
「おい、ちゃんと台詞言えよ!」
非難のこもったナツの声に、ラクサスは舌打ちした。
「……光の速さで駆けつけた」
すごい棒読みだが文句は言っていられない。
「「「「我ら!滅竜戦隊ドラゴンスレイブ!!!」」」」
四人のポーズが決まったところで、煙玉の様なものでカラフルな煙が周囲に舞った。
「久しぶりに決まったな!」
「はい!私ちょっと感動しました!」
「一カ月ぶりぐらいじゃねぇか?これ」
約一名は顔を引きつらせていた。
「くだんね」
盛り上がっている所で、今回の悪役であるジョゼが申し訳なさそうに声をかけた。
「あの、もういいですか?」
その声に三人は臨戦態勢に入った。ラクサスだけはかったるそうに立っている。何しにきたのか。
しかし、いちいち突っ込んではいられない。ジョゼは手を前に差し出した。
「行きなさい!幽鬼の兵士、幽兵(シェイド)達よ!!」
ジョゼの声に反応して現れたのは、肉体など持たない影だ。気味悪いそれにウェンディはナツに引っ付いた。
「あれって、おばけですか?」
「え!あれってお化けなのか!?」
ガジルに視線を向けるが、今は無関係の者たちの事を聞かれても困る。答えないガジルに、ナツはラクサスへと視線を向けた。
「……人形みたいなもんだろ」
さらりと言い切るラクサスに、ウェンディは安堵したようにナツから離れた。数が多いだけで実際に戦力は低いだろう。
ナツは口端を吊り上げると両手を炎で纏った。戦闘開始だ。
だが、その空気をぶち壊す様に軽快な音が鳴り響いた。戦士の手首に巻きついている通信機つきの時計ドラゴンウォッチだ。
『大変よ!』
通信の主はルーシィだ。やる気をそがれたナツが不満そうな顔をしているとルーシィから不穏な名前が飛び出した。
『早く終わらせて帰ってきて!もうすぐ、エルザが…司令官が帰って来ちゃうの!』
その場の空気が凍りついた。
「な、何ーッ!?」
ナツが叫び、ガジルは冷や汗を流し、ラクサスは舌打ちをした。ウェンディは三人の反応に苦笑している。
『それじゃ、すぐよ!』
通信を切ったルーシィ。それにすぐに頭を切り替えたナツは三人に視線を向ける。
四人が頷くと戦士たちは力を溜め始めた。
「行くぞ!全滅奥義!火竜の……」
ナツの声を合図に、四人は一斉に空気を吸い込んだ。
「天竜の」
「鉄竜の」
「雷竜の」
「「「「咆哮ーッッッ!!!!!」」」」
四人が放った属性の異なるブレスがうねる様に交わり、敵を一掃した。あっという間の出来事だ。名乗りを上げてから数分と足らず解決してしまった。
正直なところ、建物まで巻き込んでの壊滅状態では、どちらが悪者か分からない。しかし四人は悪びれた様子もなく慌てて本部へと戻っていった。
「やべ!まだエルザ帰ってねぇよな!」
「司令官ですよ。ナツさん」
彼らが怒られる原因は器物破損やそれからくる被害額なのだが、それを自覚するには時間がかかりそうだ。
20100905
アリア様から頂いたリクでした。