ぼんやりと目の前の景色が霞むように霧雨が降りしきる2月某日。ここしばらく雨が降っていなかった為、目の前をせわしなく落ちていく雫を物珍しげに眺めていた。その雨脚は次第に強さを増し、玄関に出てから数分としないうちにバチバチと叩きつけるような雨音を奏で始める。

「おー凄い」

この時期にこれだけの大雨とは本当に珍しい。何の前触れだろう、ああそっかこの前の生物の抜き打ちテストの点数を案じでもしているんだきっと。

「名字?何を玄関に座りこんでいるのだ」
「ん?…あ、傘持ってなくて」

ふいにした自分を呼ぶ声にゆるりと振り返る。先程まで委員会で一緒だった真田君は、自分より先に教室を出た私がまだ帰っていないことが不思議なのだろう、訝しげに眉をひそめてじっと此方を見ていた。

「あ、やっぱり真田君は持ってる。流石準備いいね〜」

ふとその手を見れば模様なんて一切ない、ただ黒いだけの折りたたみ傘。

予想通り過ぎておかしいったらありゃしない。

「で、いれてもらえないかな?」
「……まったく仕方がない…」

私と傘を交互に二回見て少し考えてから、渋々と言った風に傘を開く真田君。常日頃から厳しい彼だけれど、何だかんだ言って優しいのだ。

「天気予報くらい見るべきだ」

呆れが含まれた言葉に「次から気を付けるよ」とサラリと返しながら、そう言えば今朝見た天気予報のお姉さんがつけていたマフラーが可愛かったなあと思った。



嘘吐きレイニーデイ




(お姉さんが雨降るって言うから忘れたの)





……………………

真田君の傘は黒がいいです。無地の。大きなやつ。