(あ、来た)

毎週土曜日、私がバイトをしている和テイストな喫茶店に、決まって4時になると現れる彼。いつも黒い帽子を被っていて、その下の瞳は真っ直ぐで、それが印象的だった。

「あっ、注文入ったみたい。行って来…」
「私が行って来ます」

すかさずオーダーを取りに駆け出す私(店内で走ってはいけないから、実際に駆け出したのは体ではなく気持ちだけだけど)。この瞬間、私の気持ちは羽のように軽やかになる気がする。


「ご注文をお伺いします」
「抹茶を一つ」
「かしこまりました」


(ふふっ、いつも通りだ)

いつだって決まって頼むのは抹茶。確かに和テイストの喫茶店ではあるが、他にも飲み物はあるのに必ず抹茶。今時にしては渋いな〜なんて初めは驚いて、更に着ている制服で中学生だと分かった時はもっと驚いた。中学生が抹茶!渋い!


「抹茶一つお願いしまーす」

オーダーを伝えて手が空いてから、こっそりと彼を盗み見る。


(今日もだ)

これもいつも通り。彼は注文をすると誰かと電話を始める。会話内容は分からないけれど、厳しそうな顔立ちの彼がふわりと柔らかく、優しい微笑みを浮かべているあたり彼女で間違いないだろう。そりゃあれだけ整った顔立ちで彼女がいないわけがない。人柄は知らないけれど、たぶんいい人そうだし。

(毎度のことながらショックだなあ…)

この前気付いてしまったが、私はあの人のことが好きなのだ。でもこの恋は成就見込みナシ。


(でも、いいんだ。せめて知り合いくらいになれたら…)

恋人なんて高望みは捨てることにし、私は別の一歩を踏み出そうと決心した。

友達、いや、知り合いへと昇格したいから、今日私は彼に話しかけようと思います。



「お待たせ致しました」

抹茶を持っていくとほぼ同時に通話は終わったようで、彼はポケットに携帯をしまう。

「いつも必ず注文の後電話していますよね」
「あ、ああ見られていましたか」
「つい目についてしまって。彼女さんと仲良さそうで羨ましいです」

つきんと小さく心が痛むのはきっと気のせいなんだ。


「……はい?いえ電話の相手は友人ですよ」
「…え?」

はい?今私の耳に入って来た言葉は何ですか?理解出来ないのですが。

「入院中なのですが…毎週土曜の5時に部活の仲間で集まって見舞いに行っているので、この後行く、と電話をしていたんです」
「な、んだ…そうだったんですか」

つまりは私の勝手な思い込み、というやつで。恥ずかしいやらいたたまれないやら…でも彼女でなかったのは正直なところ嬉しい。

「それより」
「はい」

彼女ではないと分かった途端、嬉しさににやける自分がいる。今の返事にそれが出ていないといいのだけれど。

「有り難う御座います。…いつも貴女が持って来てくれますね」
「…!」

覚えていてくれた…の?うわ…どうしよう、嬉しい。今なら何も怖いものなし…な気がする。

「あ、あの…」

だから、ダメ元で一つ、



これは
提案なのですが





(恋などおひとつ如何ですか?)





……………………

真田君の誕生日祝いと言う事で一つ。別に誕生日関係ない内容ですけれどね!笑