「はぁ」と息を吐けば、微かに白く見えるようになってきた。もうそんな季節か。初雪にはまだ早いが、寒さだけは一人前になって俺たちを襲って来る。

首をすくめてマフラーを口元まで持ってくると、やっと少しだけぬくもりを感じた。

「のーのー」
「あ?なんだよぃ?」

突拍子もない気の抜けた声は、隣を歩いているクラスメイト兼部活仲間の仁王のものだ。だるそうな足取りと丸まった背中はいつものことだが、この寒さもいくらか影響しているのだろう。

「もうすぐじゃのう」
「何が?」
「分からんの?」
「質問に質問で返すな」

これ真田からの受け売り。だから真田が疑問符つきの言葉を発した時は要注意しなければならない。じゃないと場合によっては雷が落ちるからな。

「卒業式じゃよ」
「まだ四ヶ月は先だろぃ」
「もう半年は切ったなり。…忘れとるんかも知れんが、高校も卒業式ぜよ」
「あー…うん、そうだな」

仁王が言いたいことは分かった。つまりは俺達は卒業するし、俺の彼女…立海大附属高校に通う名字名前も卒業する。分かっていたはずなのにこうして改めて言われると、妙な現実味が感じられた。


そもそもの出会いは一年生の時だ。入学式当日に間違って隣にある高校の校舎に行ってしまい、そこで初めて名前と出会った。
俺の制服を見て中学生だと気付いてくれた名前の案内で、俺はなんとか入学式に遅れずに済んだ。

しかし急いでいた為お礼を言いそびれてしまい、入学式中に滅茶苦茶悔やんだものだ。

(また会えるかなー…お礼言いたいし)

なんて思っていたら、入学式の帰り、校門を出たところで本当に会えてしまい、運命を感じたのも良い思い出。そこで名前と、三つ歳上だということを知った。

当時は俺が立海大附属中学校の入学生で、名前は立海大附属高校の入学生。
もう数ヶ月後には俺は立海大附属中学校の卒業生で、名前が立海大附属高校の卒業生。
もう、三年の時が流れたのだ。

今までは忙しくない限り、毎日顔を合わせることが出来た。だけど来年からは違う。就職するという名前は一人暮らしを始めるらしく、しかもここからは少々距離がある為、まだ学生の身である俺がほいほい会いに行くことすら出来ない。


それが不安ではないと言ったら嘘になる。遠距離恋愛…という程遠い距離なわけではないが、俺にしてみればそのレベルだ。だからこそ、今のうちに言いたいことは言っておくべきだとふいに思った。

…今の時間なら校門で名前と鉢合わせ出来るかもしれない。「明日は日直だから早く登校するんだ」って昨日言ってたし。


「ごめん仁王、先行く!」
「プリ」


朝練に顔出しでもしてやろうと思ってたけど、止め。赤也なら上手いことやってるだろ。

それよりも今は名前に言わないと。何を?いや言いたいことはあるんだけど上手くまとまらない。あれ、どうしよ。しかももう校門見えてきちゃったし。…予想通り名前もいた。


「名前っ!」

名前が振り返った瞬間、やっとまとまりそうだった言葉は再びバラバラに。ええい、どうにでもなれ!



どうか聞いて下さい




「誰よりも愛してるっ!これからも宜しくお願いします!」
「…」
「…」
「…こちらこそ」

笑った名前が愛しくて、俺も同じように笑顔を浮かべた。






……………………

やっぱりね、男前な丸井君が好きです