校長先生の話が長いというのは全国共通の事柄だと私は信じている。何故ならば他校の友人が「うちの校長、話長過ぎてしんどい…」と洩らすのを聞いているし、現在進行形で小難しい話を延々と語っているうちの学校の校長も例外ではないからだ。

「16分…」

校長先生が立つ壇上の更に上、大きな白い時計をちらりと見れば自然とため息が零れる。これだけ生徒がいれば、それがバレることはないから問題ない。

「残念、18分でした」

突然すぐ右から聞こえてきた声に驚いて、素早くそちらを向けば前を向いたまま姿勢よく立つ幸村君がいた。私の気のせいでなければ若干口元が緩んでいる。
集会がよくある訳でないから忘れがちだけど、そう言えば身長順に並ぶと横に来のは幸村君だった。

「全く…どれだけ時計見ているの…」
「ずっとだけど?」
「ずっとって…」
「だって校長先生の話退屈なんだから仕方ないよ」

自分も前を向き直したことで幸村君の表情は見えなくなったが、間違いない。彼は今、初夏の風の如く爽やかな笑顔を浮かべている。

「本当に幸村君は優等生顔して言う事は辛辣なんだから…」

外見だけなら誰もが彼を模範生だと思うこと必須。しかしその実態は悪戯心を忘れない茶目っ気たっぷりな人物だったりする。

「そう?有り難う」
「褒めてないから」
「あははっ。でも優等生顔して中身も優等生なんて俺は見たことないけどなあ」

言われてみればそんな気がしないこともないが、あえて黙っておく。うん、私が知らないだけできっといるはず。そう信じたい。

「何と言うかもう…先生方に幸村君の本性全部バラしてみたい…外見に騙されないで下さい、って」
「俺そんなに外見と性格違うかな?」
「うん。あ、外見通りな所もあるかな」
「ふーん…」

確かに悪戯心や茶目っ気云々は外見と違うけれど、人当たりが穏やかだったり誰にでも平等に優しいところなんかは外見そのまんまだと思う。植物や絵画が好きな一面もしかり。

「じゃあさ名前は、俺みたいに外見と中身が違う人は嫌い?」
「え?いや、別に嫌いではないよ。外見と中身が違っていても、その人に変わりないわけだし」

そこまで言った時、ようやく壇上の校長先生が降壇して来た。そう言えば校長先生の話の最中だった。お互いにひそひそ声で会話していたのはその為だったと、すっかり忘れていた。

「やっと終わる…」

あとは閉会の言葉だけ!そう気を抜いていたせいか、すぐ真横に幸村君の顔が来たことが一瞬分からず、気付いた次の瞬間思わず声を上げそうになるくらい驚いた。

「ど、どうしたの突然」
「あのね、」

耳元で喋るものだからくすぐったくて、むずむずする。

「名前が好き」

それは今言うことなのかとか、どうして集会が終わるまで待たないのかとか、ツッコミ所が満載過ぎるこの状況。でも一番ツッコミを入れられるべきなのは、そんな状況にも関わらず心底嬉しいと思ってしまう私ではないでしょうか。



ここだけの話、



「返事は教室に戻ってから聞くね」







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立海の集会は長そうという偏見(笑