雨続きだったここ一週間、久しぶりの晴れ模様は眩しい限りだ。こんなに気持ち良い快晴だと心が踊る踊る

「ゆーきむら君」

そんな最高な天候の下、偶然彼氏を見つけたら自然にとびきりの笑顔も浮かぶというもの。そりゃあね大好きだから

「苗?」
「そう、木の苗」

中学校の花壇から少し離れた開けた場所、そこに座り込む幸村君は手際よく苗を植えていた。私はその横に座り込むと、幸村君が植えた苗をじっと観察してみた

「幸村君は花だけじゃなくて木も植えるんだね」
「俺も木を植えるのはこれが初めてなんだ」
「へ〜…あ、今更だけど花壇じゃないところに植えて怒られないかな」
「大丈夫。先生の許可はとってあるから」

流石幸村君ぬかりはない。しかも日当たりが良さそうで、周りに成長の邪魔になりそうな障害物もない。植えるポイントとしてはぴったりだと思う。それも計算の内かと思うとやっぱり幸村君は凄いなあと実感


…あれ、でも、


「木って成長するまでかなりかかるよね。人の寿命だと、花と違って成長が見られないよ?」

これは花の苗じゃない、木の苗なんだ。花とは比べものにならないくらい成長に時間がかかるってことは私にだって分かる。幸村君もそれを分かっているはずなのに、ちらりと横目で見た幸村君の表情はいつもの笑顔

「それでいいんだ。確かに俺はこの木の成長を見ることは出来ない。…でも、遠い未来の人達がこの木を見て、幹の逞しさ、葉の美しさを感じてくれたら……それで」
「未来の人達が…」

立ち上がった幸村君は愛しそうに苗を見下ろした。私も同じように立ち上がってから苗を見つめて微笑んでみた

「それに俺たちの子どもがこの木の成長を見届けてくれる…そう信じているから」
「そうだね…ええっ!?」

一瞬同意したものの聞き捨てられない言葉があった。幸村君は何と言った?俺たちの子ども?はい?

「ああ、そう遠い未来でもないか」
「あ、えっ」
「ね?」
「…はい」

イエス以外認めないと言わんばかりの笑顔で戸惑う私の片手を掴み引き寄せるから、素直に頷く他なかった

いつの間にやら背中にも手が回っているし。しかもそのまま顔が近づいてくるものだから慌てて掴まれていない方の手で押し戻そうと頑張ってみる

「ここ外!」
「そうだね」
「ス、ストーップ」

けれども押し戻そうとしたその手はいとも簡単に掴まれてしまうとかさ、自分の努力が虚しくなってくる。幸村君はこう見えて力が凄く強いから、幸村君が離してくれない限り私はどうしようもないなんて分かりきっていたけど。あの真田君よりも力が強いというのだから我が彼氏ながら恐ろしい。せめて背中に回っていた手がなくなったのはいいのか悪いのか

「何か問題でも?キス位いいでしょ?中学生じゃあるまいし」
「幸村君は中学生!」
「ああ、そうだっけ」

分かっているくせに。わざとやっているからたちが悪い

「先輩をからかわないの。ほらお昼休み終わっちゃうよ」

時計がないから分からないけど、たぶんもうすぐ予鈴が鳴る気がする。それを幸村君も分かっているのか私はやっと解放された

「残念、それじゃあ戻ろうかな。ああそうだ、今日は部活休みだからすぐ迎えに行くよ」
「分かった、待ってるね」


あまりにも爽やかに笑うものだから私は油断してしまったのだ


「ああそれと名前さん」
「ん?どうし、」

"どうしたの"その言葉を全部言い切ることは出来ず、振り向きざまに腕をひかれあっという間に唇を奪われた。…予想外にも程があるよ

「それじゃあまた放課後」

予鈴が鳴り響く中満足気な表情で去って行く幸村君。その背中を見送りながら私も戻らなければと頭では思いつつ、体の力が抜けへたりとその場にしゃがみこんでしまう

(授業に遅れたら幸村君のせいなんだから…!)

…けれども、悪い気はしないけど



次世代に告ぐ





「…ちゃんと成長を見届けてね」

今は小さな苗を見ながら、将来この木を見るであろう人達を思い小さく呟いてから、私はやっと教室に戻ろうと立ち上がった





……………………

立海は中学と高校の校舎近いだろうし、きっと花壇のお世話してる幸村部長を高校でも見られちゃうんでしょうね。いいな…そんな学校