「…ごめん。なんて言うかさ…お前はすっげー良い奴なんだけど…やっぱ友達としか見れねーわ」

普段は心地よい彼の言葉が、グサリと鈍い音を立てて胸に突き刺さる感覚がした。痛い…というより、虚しい。

「ううん…いいんだ。なんとなく、そうだろうなーって思ってた」

これ、本当。一人でモヤモヤと関係に悩むのが嫌で、今の関係が壊れたってスッキリする方がマシだ、と覚悟を決めて告白しようと思った昨日。たぶん上手くいかないと頭の片隅で理解している自分がいた。

「そっか…悪い。……でも!お前はこれからも良い友達だから!女子ん中ではお前と一番仲いいし!」
「ありがと」

そんな優しさが好き。…だった。ずっと。



走り去って行く背中が見えなくなった頃、自分も教室に戻ろうという思考がようやく浮かび上がって来た。

(ここでボーッとしてても仕方がないし)


そうして彼の後を追うように一歩を踏み出した瞬間、クスリと小さな笑い声が聞こえた。反射的に音のした方、体育館へと繋がる渡り廊下を見上げた。するとそこには…マスターと称される彼がいた。



「名字名前」
「なに?」

名前を呼ばれたので、一応は返事をしておく。…名前覚えていたんだ。


「小学校からの幼馴染みに片想いをしていたが玉砕。相手からは幼馴染みの良き友人としか思われていなかった」

生徒は沢山いるのに、ちゃんと名前を覚えていてくれたことで好感を持ったのに、今それが一瞬にして消え去った。唖然とするしかない。なんと失礼な。

「傷心してる人をからかいに来たの?大層な趣味だね柳蓮二君」

出来る限り最大限の皮肉めいた口調で返してしまったが、悪気は全く、これっぽっちもない。

「ほう、知られていたか」
「…そりゃあ有名だから」

皮肉にも屈しない姿勢に面食らったが、こちらも負けじと怯まず返す。

「クラスの子とかよく男子テニス部の情報交換してるから、知ろうとしなくても色々知れるし」

男子テニス部レギュラー陣は、うちの学校でトップクラスのモテ男集団だ。何故か知らないが、顔のいい連中ばかり集まっており、テニスも強いし、そりゃあモテるというものだ。

「俺の情報も知っているのか?」
「少しは。…誕生日とか血液型とか。あと…ああ好きな食べ物も知ってるかな」

偶然にも丁度昨日、柳君の話題で盛り上がっていたため結構鮮明に覚えていた。

「ふっ…それだけ知っているなら問題ない」

訳が分からない。私は面白いことを言ったつもりはないのに、柳君は小さく笑いをもらす。…柳君のことを知っているのは変なのだろうか?


「お前は俺を優しいと思うか?」

しかもこれまた訳の分からないことを聞いてくるし。何なのだろうこの人は。


「皆優しいって言ってたから優しいと思っていたけれど、さっき分かった。柳君は優しくない」

オブラートに包むことも、社交辞令で当たり障りのない答えを返すことだって出来た。でも柳君に対してそれらをするのが馬鹿らしくなり、思ったままを素直に口にした。

「単刀直入だな。まあ正解だ。優しくないから傷心のお前を慰めようなんて微塵も思わない。むしろ、そこにどう付け入ろうかしか考えていないよ」


「…は?」

少しの間を置いてから疑問符をつけた言葉を返すも、未だ柳君の言っていることが分かっていない。


「色々考えたが、お前に回りくどい言い方はどうせ気付かないだろうから、率直に言おう」

こっちは話について行けないでいるというのに、当の柳君は勝手に話を進めている。勝手過ぎるから。

…なんて内心軽く毒づいていられるうちが、まだまだ良かっただなんて、次の言葉を聞くまで1mmも思わなかった。



「ずっとお前が好きだった。名前、俺と付き合ってはくれないか?」

ああもう本当に訳が分からない。
混乱した私の頭の責任を取って下さい。



新しい恋が、
ほらソコに






(逃げて行った春が、今度は追いかけて来たみたいです)





……………………

シリアスなのは序盤のみ。あとはありきーな"失恋→付け入る"の、それなりにお約束な展開でした