どっきんどっきん
朝から煩いくらいに自分の心臓の音を感じる
別にこれは病気とかではなくて、緊張からくるもの
…あ、いや病気と言えば病気かもしれない。恋の。
なんて、そんなことを考えているあたりもう末期だと思う

それもこれも謙也君のせいなんだから
謙也君のばか
そんな二つ年下のお隣さんは本日お誕生日

家が隣ということはそれすなわち、小さい頃から面識がある
更に言うなら一緒に遊ぶだけではなく、具合が悪い時はお医者さんである謙也君のお父さんに診てもらったり、お互いの家族揃って出かけてみたり、となかなかの仲良しぶりだったりする
年は違っても毎日顔を合わせて、遊びに出かけたり、「まるで姉弟みたい」と言う周りの言い分ももっともだと自分でも思う

そんな仲だから勿論毎年誕生日はお祝いしている
そしていつからか、誕生日に告白しよう!なんて気持ちも抱いていた
…今年もそう試みている時点で毎年失敗しているということだけど

学校から帰ってすぐに、昨日作ったカップケーキを持ってお隣へ
今年こそは!と何度目かになる意気込みをして謙也君宅の玄関前に立つ
ああもうドキドキする…


「あれ?何しとるん?」

心臓が止まるかと思うくらいびっくりした
突然後ろからかかった声は謙也君のもの
え、何で後ろにいるの!?と思いながら振り返って納得
ラケットバッグを背負っている=部活があった
むしろ私はどうしてそれを忘れていたのか
謙也君が留守だったらとか少しも考えていなかった

そう頭のなかでぐるぐると思考が巡る間に謙也君はすぐ目の前に来ていた
頭一つ分以上背の高い謙也君
私の方がお姉さんなのに、いつの間にか越されてしまった身長
でも謙也君になら越されてもいいかな、なんて思う

そんな謙也君が首を傾げて見下ろしてくる
ああ、もう、なんて可愛い仕草をするんだろう

「えーっと…謙也君にちょーっと用事が…」

あははと渇いた笑いを浮かべながら答えたら、謙也君は不思議そうな顔で反対側にまた君を傾げた
だからあんまり可愛い仕草されると余計にドキドキするんだってば

「なんや用事あるんなら家に入っとればええやん」
「あ、いや、その、今来たばかりだから」
「そーなん?まぁええわ。で、用事ってなんや?」
「えっと…」

口籠もる私にまた不思議そうな顔をした謙也君だったけど、後ろ手に隠していた包みが見えたのかひょいと覗きこんできた

「ん?何持ってるん?…あ、そうか!誕生日プレゼントやな!」
「う、うん」

自分から言う前にばれてしまったのは残念だけど、謙也君が満面の笑顔だしまぁいいかな

「えーっと…はい、誕生日おめでとう」
「おおきに!」

綺麗とは言えないラッピングのプレゼントなのに、本当に嬉しいというのが全身から伝わってきて私の方が嬉しくなっちゃうよ

「今年は何?」
「カップケーキだよ」
「カップケーキ!?」

"カップケーキ"の言葉に過剰反応する謙也君
どうしよ…セレクトミスだったかな

「あ…カップケーキは駄目だった?」
「んなわけないやろ。お前に貰えるもんは何だって嬉しいっちゅー話や」

さらりと嬉しいことを言うからまたドキドキが増してきちゃったよ?謙也君どうしてくれるの

「せやけど毎年誕生日には物くれてたやんか。食べ物だと…なぁ」
「物の方がいいの?どうして?」
「ど、どうしてって…」

あれ…心なしか謙也君の顔が赤い
照れてる、ってこと?何で?照れたいのはこっちなのに

「食べ物だととっておけないやろ」
「当たり前だよ」
「だから」
「だから、って…だったら食べたらいいでしょ」
「それが出来んから言うとんの!」

食べ物食べないとか聞いたことないよ
謙也君はまだ顔赤いし、わけが分からなくて告白どころの話じゃなくなってしまう
私は告白の話題に繋げたいのに繋げられないこの状況

「どうして?」

私に残された道は食べられない理由を聞くことだけ

「そ、その…」

いつもはきはき喋る謙也君が口籠もる
珍しい姿にちょっとときめいていたら、急に謙也君が真っ直ぐに私を見てきてドキリとする


「……っ!あ、あほーっ!自分で分かれや!」


何か言おうと口を開いて、でもまた閉じて
次に開いたと思ったらアホとか言って、回れ右をして走って行ってしまった

流石浪速のスピードスター、速い



けれどもね、謙也君
君の家はここだよ?



んなこと聞かんで!





お前の手作りなんて大事過ぎて
食えないやろ!





……………………

企画"けにゃ誕!"様に提出