精霊達のレクイエム | ナノ


  04.


「私は兄であるリック・フローランスの妹よ。今すぐそこをどいて」


意図も簡単に手綱を代わってくれる彼。
瞳には底知れぬ狂気。

きっと彼が本当の意味で私に心を開く事はないだろう。

兄リックが大切。

ただその利害が一致しただけの私達を繋ぐのは、兄リックと言う存在。


私は笑った。
それでもいいと。
家族であり兄である彼に尊敬と敬愛の念を寄せるビジィーラに、私は別に嫌な気はしない。

兄を尊敬しているのは私も一緒だから。


「兄様を守りたいんでしょ。一か八かでもいいから私も頑張るから、だからあなたも諦めないで」

「当然」


私の口角が自然と上がる。

兄の従者がこの人でよかったと。


「この辺りに少しでいいから拓けた場所は!?」

「確か、直ぐそこ。右に行けばあるはずだ」


本当に申し分程度だと念を押されたが、意味深に頷き返す。

頭に入って来る声は手綱を付けている事への恐怖。
追われる身においては怖いだろう。乗馬だと綱を気にせず逃れられるのだ。それが出来ない。


止まった馬車から飛び降りた私は、急いで馬体に付いている全てのものを取り外しにかかった。
そんな行動にビジィーラはもちろん、リックも驚く。


「お嬢さんなにを!?」

「見ての通り金具を取り外してるのよ!!」

「いや、だからなんで!!」

「この子達これのせいで、怖くて思う存分走れないの!!」


なかなか外れないそれを、イライラしながらガチャガチャと弄る。
このままじゃ間に合わない、と焦っていると、割り込んで来た手がそれを除ける。


ガチャン


後ろを振り返れば兄の顔。


「悪いがビジィーラ、モニカの言うように動いてみてくれないか?きっと悪いようにはならない。・・・それは俺が保証する」

「・・・、・・・分かりましたよ。貴方が言うのなら」


もう時間もありませんしね、と半ばなげやり気な彼。それでも直ぐに作業に取り掛かった。


程なくして全ての金具が取り外された。
と同時に辺りは囲まれた。

木々の隙間から影が覗く。


それでも私は慌てない。
これが最善策だと信じて止まないからだ。


全部の馬の馬体を撫でながら冷静に指示を出す。
この子達は賢いから心配はいらない。今回の追跡者はまとっているものがまるで違う。その独特な雰囲気のせいで冷静さを欠いていただけだ。



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