思い返してはみるけれど、やはり解らない。 私は彼女を待った。 必ず来ることを、信じて疑わなかった。 雪が降っていたのを覚えている。 かじかんだ指先が痛むのだって、彼女とのこれからの人生を考えれば、少しも気にならなかった。 いわゆる、駆け落ちだった。 恋をした相手に、既に決められた婚約者がいた。 ただ、それだけの話。 だが、彼女は婚約者より僕を愛してしまった。 叶わぬ恋に嘆く彼女に、僕は言ったのだ。 (一緒に逃げよう、誰も僕らを知らない場所に) 約束の時間ぴったりに、彼女は来た。目深に被った帽子のせいで、表情はよく見えなかった。 彼女を抱きすくめ、彼女の体温に安堵した瞬間、 ちょうど胸の真ん中あたり、長いナイフが、深々と、突き刺さっているのを。 彼女の瞳は、澄んでいた。 (もっと早くに気付くべきだったのだ。僕はただ思い込んでいただけだったのだと) 思い返してはみるけど、やはり解らない。 彼女は僕を愛していなかったのか、それとも。 彼女の足跡さえも降り続いた雪に覆われて、辿ることも許されない。 真白い夜を歩いてる title by君は透明なままで |