そういえば今日は日曜日だったか。
布団から顔を出し、手を枕元にさ迷わせやっと掴んだ時計を見ると11時を半分も過ぎていた。見事なまでの朝寝坊だった。
カーテンの隙間をちらりと覗くと、街はうっすらと霧がかかり、空は薄く滑らかな灰色に覆われていた。耳を澄ますとさらさらと小さく窓を叩く音が聞こえた。小雨が降っているようだった。
さすがにこれ以上寝ていては同居人に怒られそうだ。温い布団が名残惜しかったが、おぼつかない足取りでリビングに向かう。

リビングには誰もいなかった。遅い起床にため息をつきつつも必ずおはようと言ってくれる筈の同居人がいない。何だか拍子抜けだった。片付いたテーブルには書き置きがあった。

『牛乳が切れていたので買ってきます』

整った文字が平然と並んでいる。相変わらず几帳面なやつだとため息をつく。文字もそうだが、牛乳なんて雨が止んでからでも、なんなら明日買ってくればすむ話なのに。それに、うちの同居人はコーヒーはブラックでしか飲まない。

コーヒーを淹れるために湯を沸かす。中の湯が沸騰して、カタカタと微かな音を立てるヤカンをぼうっと眺めていた時だった。

「あ」

思わず呟く。わかった途端、にやけ顔が止まらない。恥ずかしくて、誰もいないのに口元を押さえた。

ヤカンの火を止めて、軽い足取りでリビングに向かう。そのままソファに寝転がる。まだ雨は降り続いているようだった。ぱらぱらと心地好い音が、眠気を誘う。

(あとどれくらいで帰ってくるだろう。コンビニは高いからと少し歩いた先にあるスーパーに行っているんだろうな。帰ってきたらコーヒーを淹れてもらおう。あの、牛乳で薄めた子供みたいな味が私は好きだ。ブラックが苦手なこと、いつから気付かれてたんだろうか)

せっかくの日曜日。二度寝くらい許してくれるだろうと私は目を閉じる。
彼が肩を優しく揺らしてくれるまでの、ほんの少しの贅沢。


シエスタの真似事

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